2022.11.12
【中村憲剛×黒川伊保子対談 後編】もっとも難しい思春期年代の指導にこそ、“思春期脳”の知見を活用すべき
中村憲剛さんは思春期の子どもを持つ親であるとともに、JFA(日本サッカー協会)ロールモデルコーチ、自身が運営するサッカースクールなどで育成年代を担当する指導者でもあります。“思春期脳”を理解することで、どのようにスポーツの指導に活用していけるのか。前編に続く2人の対談はますます熱を帯びていきます。
(取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷 貫)
前編「“思春期の脳”の変化を知っておくことが大切な理由とは?」
思春期指導には、見守る、待ってあげる姿勢が大切
中村
僕は現役を引退して指導者の道にも進んでおり、育成年代にある子どもたちに接する機会が多いのですが、『思春期のトリセツ』を読んで感じたのは、思春期にある今の彼らの脳内では誤作動が起こっているのだから、そのあたりもちゃんと理解しなければいけないということでした。彼らの言動を否定するのではなくて「こういうアイデアもあるよ」などと彼らの幅を広げてあげたいと思って、指導をしています。そもそも、「こうやりなさい」と決めつけられるのは、僕も思春期は嫌でしたから(苦笑)。
黒川
思春期にある子どもたちの脳は、頭のなかに入っているものを整理するだけでも精いっぱい。詰め込みやすい脳に変わる15歳くらいまで、指導者は、教えてあげたい気持ちをちょっと抑えて、自分で感じる時間をつくってあげるというのも大事だと思いますね。
中村
13歳から15歳が思春期脳で、まだ大人脳への移行期だから、逆に詰め込もうとするのは、あまりよくないってことですよね?
黒川
「放任」と言うとちょっと語弊があるんですけど、先ほども言ったように本人がまずは感じて、それをフィードバックする時間が必要になるってことなんです。子ども脳の12歳までは指導者が言うこと、やること、そのときの表情まで何もかもを全部、一気に脳に入れられるんですね。それが大人になると、前編のアイスクリームの話のように、情報の差分を元のデータに付帯する、つまり合理的に判断するようになるのですが、一方で、感性のすべてを丸ごといれるっていうわけにはいかなくなります。思春期はまだ、情報を記号的に(脳に)入力して、自分のなかで味わってみないといけないから、時間が少しかかるんです。
中村
なるほど。「情報を味わう」ですか。だから、見守っていくことが大切ということですね。
黒川
はい。15歳を過ぎると自分のなかで感性を再現すること、つまり少ない情報を記号的に取り込んで、自分のなかで紐解いていくことに慣れてくる。20代になるとそれがどんどん速くなっていきます。ただ、思春期はそれに慣れていないので、どうしても時間がかかるというわけなんです。憲剛さんが言うように、見守る、待ってあげるという姿勢が大切です。
中村
指導者側が「ここはこう、これはこう」と決めつけて指導すると、どのようなリスクがあるのでしょうか?
黒川
たとえば、思春期にある子どもたちがまだ情報を咀嚼できていないのに、「これは白なんだから、白だと思っておけばいい」などと言うと、せっかく自分の中で咀嚼していることをストップしちゃうんです。すると、どうなるか。一言で表現するなら、センスが伸びなくなる。疑うことなく「これは白」だと思うから、考えなくなってしまうんですね。実際スポーツでは、教えられたことを瞬時にこなせたとしても、その後は自分で考えていかなきゃいけなくなるでしょう。たとえば、プロになれば、自分だけのセンスっていうのが絶対に必要になってくるはずです。
中村
はい。自分だけのセンスがないとやっていけない世界だと思います。これはサッカーの指導者だけじゃないかもしれませんが、思春期は背が伸びたり、体が大きくなったりする時期だから、今のうちにいろいろ詰め込んだほうがいいと思うのも分からなくはないんです。でも僕は、黒川さんの本を読んで、思春期の詰め込み型指導にはっきりと疑問を感じるようになりました。スポーツ面だけでなく、指導者もこういったことをちゃんと理解しておくべきだなと感じています。
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