2022.11.4
【中村憲剛×黒川伊保子対談 前編】”思春期の脳”の変化を知っておくことが大切な理由とは?
すべての親世代に読んでいただきたい前編です。
(取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷 貫)
思春期に親子関係がこじれてしまうと「目の上のたんこぶ」のまま
中村
今日は本当に楽しみにしていました。よろしくお願いいたします。
僕は長男が14歳でちょうど思春期に突入する年齢なんです。どの親も同じだと思いますが、子どもが物を片づけなかったり、だらしなかったりすると、どうしても「もう中2なんだから、もっとしっかりしろよ」みたいになってしまうじゃないですか。また、息子もサッカーをやっているので、「元プロサッカー選手の父親」としてもどう関わっていくか、そのバランスが14歳の思春期突入も相まって本当に難しいなと少しずつ感じ始めていたんです。そんなふうに悩み始めたときに妻から勧められた、黒川さんの『思春期のトリセツ』を読ませていただいて……。あまりにジャストタイミングだったので、本当に感銘を受けました。たとえば、思春期の脳は子ども脳から大人脳への移行期で、ハードウェアとソフトウェアが合わない状態だから誤作動が生じるんだ、とか。なるほど、そうなんだ。彼は彼なりに大変なんだなと心から思いました。
黒川
中村さんのような著名人の父親と息子さんの関係って思った以上に難しいところもありますしね。実は今日の対談の前に、私が金曜パーソナリティーを務めるNHKラジオ「らじるラボ」の収録があったんです。相手役を務めていただいている男性アナウンサーは以前「おはよう日本」も担当していましたから、世間によく知られている方なんです。そうしたら、思春期の息子さんから「父親が有名なのはウザい」と言われたそうで。同じ道で、父親が先を行っているというのは、まわりから見たら「それはお得でしょ」と思われるかもしれませんが、息子さんからすると大きな壁がある感じがするみたいですね。
中村
僕個人のことで言うと、息子に対する思いが僕が思っている以上に強いのかもしれません。思いが強すぎるゆえに私生活の乱れ、それも今思えば些細なことばかりですが言ってしまうし、サッカーのプレーのことならば、これまでの経験からわかってるところも見えてしまうところもあるので、実際に言ってしまうときもかなりあって。
黒川
脳にはとっさに使う経路に“共感型”と“問題解決型”の2つがあるんですね。男性は大抵、問題解決型を選ぶんです。
中村
まさに僕はそうです。問題点がパッと見えちゃうので、解決法を言いたくなりますね。
黒川
ひとつ職場のケースで例を出しますね。たとえば、雨の日に来るお客さんにどんなサービスをしたらいいかっていう議題があったとして、共感型の上司だと、お客さんの立場になって言うから“あれもいいよね、これもいいよね”ってある意味、無責任に話を広げられる。もちろん、最後には意見を刈り取って集約しなくちゃいけないですけど。逆に、問題解決型の上司は、反射的に問題点を挙げてしまうんです。“すべてのお客さんにそれをするのは合理的じゃないでしょ”とか。
中村
あ~、その発想とてもわかる(苦笑)。
黒川
日本の企業の多くは、この問題解決型なんです。何年か前に似たようなことをやったけど失敗したからダメとか、アイデアがどんどん消えてしまう。だから私は自分の会社で会議をするときに「きょうはみんな共感型でいこう」とか最初に言うときがあります。アイデアを無責任に広げるフェーズも必要なので。だから、「問題点を指摘するなら3回共感した後にしよう」というルールにするんですね。そうするとアイデアを出す、若い人たちの発想がどんどん広がっていくんです。
前振りが長くなってしまいましたが、家庭の場合、父親が大抵、問題解決型になるのに対し、母親は共感型というのが一般的です。だけど、中学受験が始まるくらいを境に、母親も問題解決型になっちゃうというパターンも多いんですね。
中村
夫婦ともに問題解決型になっちゃうと、思春期の子どもの立場からすれば、押さえつけられているようにも感じてしまうんですかね。
黒川
はい。そして、思春期のころに親子関係がこじれてしまうと、そのまま大人脳が完成してしまうので、子どもたちからすると「結局、親って目の上のたんこぶだよね」っていう認識のまま年齢を重ねていくことになるんです。
中村
僕の場合、男性ということのほかに、サッカーという競技自体がピッチ上にある問題を瞬間的に解決し続けないと勝利が呼び込めないスポーツで、それをプロ生活18年も含め35年近くやってきた人間なので、問題解決型の極みみたいな脳になってると思います(苦笑)。子どものことをこれだけ想って、問題解決をしているつもりでも、目の上のたんこぶになるのは嫌だなあ。
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