2022.11.4
【中村憲剛×黒川伊保子対談 前編】”思春期の脳”の変化を知っておくことが大切な理由とは?
人工知能の研究をしていたからこそわかる、人間の好奇心の素晴らしさ
中村
対談前のご挨拶で少しお話をさせてもらったときに、黒川さんは息子さんに「別に働きたくなかったら働かなくてもいいよ。ニートでいいよ」って伝えたことがあった、とか。なかなか言えることじゃないですね。
黒川
だって将来、家に帰ってこなくなったら寂しいじゃないですか。「ニートになってくれたらずっと一緒だねって。そしたらお母さん、家で本書くことだけにしてずっと一緒にいる。『おかあさんといっしょ』じゃなくて、『お母さんと一生だね』って(笑)」。これは本気で思っていて。そうしたら、息子から「勘弁してよ」って(笑)。
中村
(笑)。そう言われたら息子さんも「自立しよう」って勉強しますもんね。そうやって心も大人になっていくんですね。
黒川
今の人工知能の中核をなすニューラル・ネットワークシステムというのが、1988年に私が在籍していた富士通でもチップ化に成功しているんですね。これが事実上“人工知能のベビー”だったわけですが、その3年後に息子が誕生しまして。会社で人工知能のベビーを育て、家では赤ん坊の息子を育てていたんですが、そうすると、やっぱり人間って素晴らしいなって思うわけです。
人間って、ハイハイができるようになったら、もうハイハイがしたくて仕方がないんです。その好奇心が素晴らしい。こんなことができる人工知能をつくるには、この先まだ何十年もかかりますよ。ハイハイして水をこぼすじゃないですか。人間はその好奇心によって水は広がるってこと、重力があるってことを勝手に覚えていく。人工知能だと教えていかないと分かりませんから。
中村
赤ちゃんが水をこぼしたら、親は行く末が分かってるので「あーあ……こばさないでー」ってなりますよ。
黒川
私の場合は、息子が2回こぼしたときに「ようこそ地球へ!」って言いましたもん。「水をこぼしたら地球ではこんなふうに広がるのよ」って(笑)。
中村
黒川さんだからこその発想ですよね(笑)。
黒川
母親には、よく子育て時にイライラしたりストレスがあるって聞くじゃないですか。これ脳の視点からいうと、女性には遺伝子をもっと残したいという本能があるので、この子にばかり時間をかけていられないという脳の反応なんですよ。
中村
へえ~。それも脳が関係しているんですね。
黒川
小さい子どもが着替えに時間がかかると、ママは「もっと早く着替えてよ」ってちょっとイライラしちゃうのは、そういうことなんです。私はもう60歳を過ぎて遺伝子を残せないから、自分の孫が、いくら着換えに時間がかかったところで何とも思わない。かわいいなって、ずっと見ちゃう(笑)。いくらでも時間とコストをかけられるということなんです。
中村
なるほど。そうやって脳によるものなんだと一つひとつ分かるだけでも、親は子育てのストレスを和らげることができるのかもしれませんね。
思春期の子どもの話に戻りますけど、僕は『思春期のトリセツ』を読んで、息子がタオルとか床に置きっぱなしでも「ま、今は誤作動中だから仕方ないか」って目くじら立てなくなりました(笑)。
黒川
はい。それはもう息子さんが順調に成長している証だと思ってください。
後編「もっとも難しい思春期年代の指導にこそ、“思春期脳”の知見を活用すべき」に続く! (取材時は感染対策を徹底し、撮影時のみマスクを外しています)
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