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【中村憲剛×黒川伊保子対談 前編】”思春期の脳”の変化を知っておくことが大切な理由とは?

とにかくエネルギッシュな黒川さん。難しい脳や人工知能の話を、わかりやすく話していただきました。
とにかくエネルギッシュな黒川さん。難しい脳や人工知能の話を、わかりやすく話していただきました。

子ども脳から大人脳への移行期は13歳から15歳

黒川 
子どもの言ったことに「イエス」「ノー」と白黒をつけすぎると、脳的にも良くないんです。失敗こそが脳を良くしますから。脳というのは無駄なことを1秒たりともしない器官なので、頭ごなしに決められて「もう言っても仕方ないな」ってなると、考えることをやめてしまう。だから、親の白黒が正しければ正しいほど、子どもにとって必要な失敗体験ができないんです。

中村   
ああ……なるほど……、一つひとつの言葉が胸に突き刺さります。ところで黒川さんは、なぜ思春期の脳が違うことを発見できたんですか?

黒川
私は人工知能(AI)の研究に携わったことで、人間の脳がどのように記憶を保持して、かつ検索しているのかを解明していったんですね。まず大人の脳は、新しい体験をすると類似体験を持ってくるんで。たとえば、アイスクリームを100種類食べたとしても100種類の情報が入るわけじゃありません。「あのアイスクリームとはここがちょっと違うな」などと、知っている情報との差分のみを一瞬にして見抜き、その差分を元のデータに付帯していきます。また、関連記憶というものをつくることができます。「抹茶のアイスクリーム」と言ったら、「あの店はこうだったよね、あのホテルではこうだったよね」というようなことですね。大人の脳はそのようになっています。
ところが、子ども脳はそういうふうにはしません。感性の記憶を丸ごと脳に入れていくんです。その違いに初めて気づいてから、でも過渡期ってあるよね、と。何年何月何日に大人脳になりましたというわけじゃないので。体の状態が変わっているのに、脳が変わっていない状態があるはずだと思って、考察を始めたら(大人脳への)移行期が、ちょうど思春期にピタリとはまったんです。

中村  
『思春期のトリセツ』にはその移行期は13歳から15歳の3年間だとありました。

黒川 
はい。12歳半くらいからデータベースの構造としては大人脳に変わっていくんですけど、検索機能がまだ変わっていないということなんです。だから誤作動が起こっちゃう。思春期の子どもには、それまで自分の感情を言葉にできていたのに、できなくなることがよくあります。それなのに親は、「学校、どうだった?」って聞くじゃないですか。彼らは誤作動の最中にあるわけですから、大人の期待するような答えが返ってくるわけがないんです。

中村   
やばっ。それ昨日、聞いたばっかりですよ!!(笑)。

黒川 
「別に」とか言われたでしょ。

中村  
そうです、そうです! めちゃくちゃ切なかった(泣)!

黒川 
大人の場合なら「仕事どう?」って聞かれても関連記憶をとり出せるから、「大変なんだよ」とか言えますけど、思春期の子どもたちは何の関連記憶も出せないんだから「別に」と言うほかない。これ、反抗しているとかじゃ全然ないんです。

中村  
15歳から大人脳に切り変わるんですよね。

黒川 
15歳から28歳までは「単純記憶力最大期」と呼ばれていて、知識を詰め込みやすい脳になります。たとえば、勉強でも変化が出てきます。うちの息子にも15歳の誕生日を迎えたときに、「これで君は大人脳に変わりました。ある意味、母親の子育ては終わったのでここからは親友になろう」と言いました。これに関しては我が家では面白いエピソードがあるんです。中学時代の息子は思考能力はあるのに成績自体はあまり良くなくて、行きたい学校には偏差値的に厳しいと学校から言われていたんです。そこで偏差値を42から50に上げる戦略を私が立てたんですね。偏差値を42から50に上げるのは、50から60に上げる戦略とは違うので、まず「しなくていいこと」を決めました。

中村  
「しなくていいこと」? 「しなければならないこと」ではなくてですか?

黒川 
都立高校の過去問を私が解いてみたら、毎年、数学の3問目が難易度高いことが分かりました。息子の答案を見ると、確かに3問目でずっと止まっていたので、「君は偏差値50を目指しているから60点でいい。だから君には3問目を解く権利はない。飛ばしていい。最後に時間があればやればいい」って言ったんです。そうして結果、目指していた高校に合格しました。

中村   
すごい!

黒川 
ただ息子が偉いなって思ったのは、(受験後の)春休みに「中学校の復習ができる塾に行きたい」と言ってきたんです。私は、「15歳からの脳は勉強するのに適しているから、塾に行かなくても高校でイチから始めればいいんじゃないの」と言ったら、息子が「3問目を解く権利のない男で生きていきたくない」と。

中村  
15歳にしてかなりの名ゼリフですね(笑)。自分からそうしたいと行動に移したところが、大きな変化なのかもしれませんね。

黒川 
そう。もし私がお尻を叩いて「塾に行ってきなさい!」と言っていたら、そんな言葉は出てこなかったと思います。

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新刊紹介

中村憲剛

なかむら・けんご●1980年10月31日生まれ、東京都出身。中央大学卒。
2003年、川崎フロンターレに入団。20年の引退まで同チーム一筋のレジェンド。Jリーグベストイレブン8回。16年にはMVPも受賞。日本代表国際Aマッチ68試合出場6得点。10年南アフリカW杯、出場。最新刊『ラストパス』は現在4刷で話題。
公式ブログ■中村憲剛オフィシャルブログ
公式X@kengo19801031
公式インスタグラムkengo19801031

黒川伊保子

1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業後、富士通でAI開発にかかわり、脳と言葉の研究を始める。日本語対話型コンピュータや、語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し。マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。ベストセラーになった『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『娘のトリセツ』『息子のトリセツ』など著書多数。
公式HP■黒川伊保子オフィシャルサイト

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