2021.12.11
【中村憲剛×横田真人対談 前編】川崎フロンターレの取り組みも参考に、地域密着の新しい陸上競技クラブを作る
子供ファンが親になり子供を連れてくる流れを18年間で経験
横田
ひとつ、質問していいですか?
中村
どうぞ!
横田
フロンターレの選手たちには、そういった活動をポジティブにやっているように感じるんですよね。先ほど憲剛さんが言ったように、どのクラブも同じようにやっていたら共通認識を持てるけど、そうじゃなかった。なぜ、フロンターレはそこが体現できているのか、と。
中村
自分で言うのもあれなんですけど、ベテランの僕が先頭を切ってやっていたことも理由としてはあると思うんです。僕は人前に出ていくのも交流を持つのも嫌いじゃないですし、あとは先輩たちがそういう姿を見せてくれたことが大きかった。
横田
卜部も言っていました。憲剛さんがやるから若い選手もやらなきゃいけなくなるって。
中村
僕の後にキャプテンになる小林悠が入団してきたときに「日本代表に選ばれたり、メディアによく取り上げられたりする憲剛さんがかぶりものをして全力でやっていたら、僕らもやらないわけにはいかないでしょ」と。現キャプテンの谷口彰悟もそう言ってくれています。近年はそういうクラブだってことを選手たちもわかって入ってきているとは思いますね。
横田
カルチャーとして根づいてきて、スタジアムにもお客さんが入るようになっている歴史があるんですね。
中村
試合を観戦してくれる子供たちが今度は親になって自分の子供を連れてくるっていう流れを、僕もプロキャリアの18年のなかで経験することができました。最初はサッカーをやってお金をもらえるのがプロの仕事だと思っていましたけど、それだけじゃない価値感、ピッチ外でもアスリートの価値を見出すことができることを、フロンターレに入って気づかせてもらった感じがありますね。
横田
そこがまさに僕のやりたいことでもあります。たとえばオリンピアンが地元の中学生と同じ日のレース、同じトラックで走っても、自分の出番が終わったら交流もなく帰ってしまうとなると、もったいない。ファンの人や、陸上が好きな子供たちとの接点をつくることにもっと貪欲にならないといけないと思います。観てくれる人がいるから、スポーツは成り立つ。その視点が陸上界は欠けていると感じますね。もうひとつ言わせてもらうと、陸上の大会を開こうとして有観客にすると、ある競技場では使用料が約3倍になったりするんです。
中村
え!? 3倍!? それはかなり違いますね。
横田
だから、お客さんがいないほうが運営的には楽だし、お金もかからない。でも赤字になってもいいからお客さんを入れてチャレンジしないと、陸上界も変わらない。コロナ禍ではあるんですけど、できるかぎり有観客にこだわっています。
中村
去年、現役最後の2020年シーズンで無観客試合をスタンドから観ましたけど、ボールを蹴る音と選手やスタッフの声だけなので、味気なかった。ファン、サポーターの存在がどれほど大きいか、無観客試合を通じて感じることができましたね。
横田
逆に僕ら陸上選手はお客さんの力を、あまり知らないんです。世界陸上とオリンピックならそれも味わえますけど、普段のレースになると1000人も入ってないと思うんです。だから人に観てもらおう、人を呼ぼうという意識がどうしても乏しい。
中村
横田さんは現役時代、実業団チームで走っていましたよね。
横田
はい。スポーツビジネスで言うとクラブなど組織の収入はチケット、グッズ、放映権が柱だとは思うんですけど、陸上の実業団は会社から活動費をもらって運営しているので、そもそもファンに支えられているという概念がなくても成立する構造になっています。それに、フロンターレのファンにはなりやすくとも、企業名が入った陸上部のファンにはなりづらい。だから僕が立ち上げた「TWOLAPS」では、JリーグやNPBなどのプロチームを見習って、ファンとの接点をつくっていくところからやっていきたいんです。卜部からも「フロンターレはこうやっていますよ」と情報をもらっているので、フロンターレさんは本当にいい見本なんです。