2026.10.14
愛らしさに溢れた、茶道具の世界【群ようこ『今日も愛でたい』 第6回】
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茶碗は最初に買った、福本未来作の海松の柄のものは、これも皆さんにも使っていただこうと、お稽古場に置いていただいている。家で点てるカジュアルな薄茶用でも、ふだん使いと、きちんと生菓子と共にいただくのと、二種類が欲しくなり、まず古垣嘉一作の「稲穂と雀」の柄を購入して、
「雀ちゃんがかわいい」
と愛でながら使っていた。
しかし違うタイプのものも欲しくなり、海松柄の茶碗と同じ、福本未来作の「淡桃地 猫柳」という茶碗を見つけた。茶碗が薄い桃色で、私としては食器としても茶碗としても選ばない色なのだけれど、ここに抹茶の緑色が入ったらきれいだろう、と購入して、その日の気分によって雀ちゃんと使い分けている。厳密にいえば、それぞれ秋と早春の柄なのかもしれないが、気にしていない。生菓子を買ってきて、少しあらたまって点てるとき用には、茶碗自体があまりにかわいらしくて一目惚れした、大塩昭山作の奈良絵の「赤膚山」にした。この三個を気分と、ちゃんとした生菓子があるかないかによって楽しんでいる。
炉を切らないまでも、電熱式の釜を設置して点てるとなると、他にも水を入れておく水指、湯や水を捨てる建水、柄杓、蓋置が必要になるのだが、うちにはそういったものはないので、抹茶を点てるときは鉄瓶で入れたお湯を使っている。その水指や建水にもそれぞれ意匠があり、水指が磁器だったり陶器だったり、さまざまな形をしている。水指用に適した容器が手元にあった場合、それに合わせて塗り蓋を誂え、水指として使う例もよくあるらしい。
うちでは簡単に点てているので、とりあえずお点前に倣って、茶碗に湯をさして茶筅の先をあたためたり、欠けなどがないかを確かめる茶筅通しをしたり、茶碗を清めるために、麻の茶巾で拭き清めたりはするが、それはすべて調理台でやって、湯、水を捨てるときはそのままシンクに流す。相当な手抜きかもしれないが、自分の家で点てるのだから、まあ、これでいいかと思っている。
抹茶もお菓子もおいしいのだけれど、それ以外にも興味を惹かれる部分はたくさんあった。薄茶用の抹茶を入れるのは、一般的に棗が知られているし、私もそれしか知らなかったけれど、他にも仏器、円形で横に広く蓋が赤い甲赤、円筒形の中次、雪吹などがお稽古場にあって、薄茶器ごとに多少扱いが違ってくるのを知った。なかでも四滴の扱いを先生から教えていただいたときは、
「こんなかわいいものがあるのか」
と興奮した。子どもの頃、池袋の丸物百貨店で親に買ってもらった、陶器製のままごとセットみたいなのだった。
四滴というのは、「蔓付」「手瓶」「水滴」「油滴」の、基本的には薄茶を点てるときの薄器で、中国渡来の容器に見立てて、茶入を作ったそうだ。どれも本体の高さが六センチ、直径も六センチほどの小さいものだ。「蔓付」は文字通り、本体に蔓がついていて、高さは十センチほど。「手瓶」は本体に持ち手がついたもの。「水滴」は口と持ち手がついている。「油滴」は口だけがついている。そして象牙の小さな蓋がついていて、陶製の本体は織部風だったり、小さな柄が描かれていたり、釉薬がかかっていたりと、様々な意匠が施されている。私が見た限りの話だが、四滴すべてが同じ意匠のものはなく、それぞれに個性を持たせているようだった。とてもかわいらしいのだけれど、お点前のときの扱いが個別に違って複雑なので、愛らしいけれど扱うのはちょっと……と思っている。
大名たちの豪奢な茶碗や茶道具については、展覧会なども開催されていて、贅を尽くした茶道具を見る機会があり、すごいなあと目が釘付けになる。しかし戦国時代に生きていない私個人としては、茶道は禅の精神からはじまっているので、現代では豪奢な道具自慢っていうのもねえ、と首を傾げる。手元にあるものを見立てて使うほうが、洒落ているのではと思うけれど、すべてがそういうものばかりだと、それもまた違うかなあと考えたりもする。
お稽古場には、師匠が指導していただいた師匠から譲り受けたお道具や、師匠のお祖母様、お母様が所有なさっていたお道具も多々あり、それを拝見するのが楽しい。たとえば炭を継ぐお稽古の炭点前では香合を使い、炉のときは練香、風炉のときは香木を中に入れる。風炉のときは陶製の香合は使わない。そしてそれらの香合の意匠が愛らしい。
五センチ角で高さ三センチほどの木製の筥の蓋に、彫金の亀が乗っていたり、香川県の伝統的漆芸の蒟醤という、繊細な象嵌の丸形のものだったりと、見たことがない手仕事のものがたくさんあって、師匠が用意してくださると、
「ああ、またこのお道具が出てきた」
とうれしくなる。そして師匠は、
「しまっておかないで、みなさんが触ってくださると、どんどん艶が出てきた」
とおっしゃる。そういえば前に見たときよりも、表面に艶が出てきたような気がした。薄い色の茶碗も、それで抹茶を点てていると、うっすら中に色がついて、趣が変わってくる。
そんな様々なお道具があって、お茶のお稽古が成り立っている。どれもこれも愛らしくて、お稽古場の茶室に身を置いているのはとても楽しいのだが、私のお稽古が「うまくいく」わけではないのが悩みなのである。
記事が続きます
次回は11月11日(水)公開予定です。

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