2026.10.14
愛らしさに溢れた、茶道具の世界【群ようこ『今日も愛でたい』 第6回】
その一方、着物、和装小物、アクセサリー、はがき、封筒、便箋など、手放さずに愛用しているものたちも。
新連載のエッセイでは、モノをできるだけ増やさないという鉄則の中で、厳選して身の回りに置いている愛用品についてのエピソードを綴っていただきます。
前回は、日々の自炊で活躍している愛用の調味料や、食材のお話でした。今回は六十八歳で始めた、趣味のお茶の道具について。
イラスト/ヨツモトユキ
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今日も愛でたい 第6回 「かわいい」が詰まった、茶道具の世界

お茶のお稽古をはじめて四年目に入った。六十八歳からはじめたため、お道具を両手に持っての立ち座りなど、ふだんの生活ではまったくしない動作なので、最初はまったくできなかった。膝からは謎の音がしたり、よろめいたりで、こんな状態でお稽古など続けられるのだろうかと不安だった。そのうえ四時間半ほどのお稽古の間、途中で休み時間はあるけれど、ほぼ正座の状態なので、膝の下周辺が痛くて困った。
ところがそんな状態でも体は慣れるのか、おぼつかないながらも立ち座りができるようになり、膝の下あたりが痛くなって、たまにあざもできていたのに、それもできなくなってきた。しめしめと思っていたが、今年の梅雨時、お稽古の後に左膝に違和感があって診てもらったら、原因は冷えだといわれた。私には思い当たることがあった。そのひと月くらい前から、もたもたするのがいやだったので、下半身に穿く肌着を一枚減らしたのである。それがてきめんに影響したらしい。あわてて元に戻し、何とか回復したのだが、冷えて膝に影響があったということは、体のなかで弱くなっている部分だと判断したので、無理をするのはやめにした。
お点前をするには問題がないので、師匠に、
「他の方がお点前をなさっているときは、椅子に座って、見学させていただいていいでしょうか」
とお願いしたら、快諾してくださった。自分のお点前は今までどおりで、正客として亭主と問答があるときは、対面で正座するけれど、客人としてそれほど重要ではない流れのときは、椅子に座らせていただいている。無理をすれば座っていられるけれど、なるべく長くお稽古を続けたいことを考えると、これがいい方法かなと考えた。最初から最後まで、正座をしてお稽古をしたいのだけれど、膝が痛くなって、お稽古をやめようかと考える方も多い年齢になってはじめたのだから、こういう事態も仕方がない。師匠が寛大なのはありがたいことである。
お稽古をはじめて、炉と風炉という季節の区別、茶事の懐石料理、濃茶、薄茶の流れなど、知らなかったことがたくさんあった。お稽古に携帯する必需品として、茶扇、懐紙、菓子切り、点前帛紗、古帛紗があるのも知らなかった。その古帛紗は十五~十六センチの三方が縫われた四角い布で、様々な柄があって見ているだけで楽しい。特にネコ好きとしては「竹林猫繋文錦」がたまらなく愛らしく、私より一回り年下だが、同じくネコ好きの姉弟子にさしあげた。彼女の話によると、大河ドラマの「光る君へ」を観ていたら、この柄が出てきたそうだ。調べてみたら平安時代の、国宝「金地螺鈿毛抜形太刀」の鞘の柄がもとになっているらしい。平安時代の人々が、どうしてこんなにかわいい柄をデザインし、使おうとしたのかと想像すると、思わず顔がほころんでしまう。使うのがもったいないので、取り出しては眺めている。お稽古での古帛紗を選ぶ基準は、その年の干支えとの柄で、今年は私が年女ということもあり、茶扇の柄も、馬が九頭いる「馬九行久(うまくいく)」、古帛紗は「有栖川午文」にした。
抹茶は若い頃から好きだったので、家でも飲んでいた。実家にいたときは、結婚前に茶道を習っていた母親が、真夏に茶筅で点てて氷を浮かせたものを出してくれていた。ひとり暮らしをはじめたときは、使われていなかった棗を実家から持ってきていたし、たまたま見かけた茶筅を購入して、今でもそれを使っている。しかし当時は実際には茶筅を使わず、カップに抹茶を入れて、そこに少量の湯をさしてスプーンでまぜてペースト状にしたものを、適当な量の湯でのばす、めちゃくちゃなやり方だった。
しかしお茶を習いはじめてからは、まさかそんなことをするわけにもいかず、家でも最低限の道具くらいは揃えたほうがいいなと、小さいものから、ちょこちょこと愛らしいと思うものを集めてきた。お稽古をはじめた年の冬、たまたま見つけた茶杓がセール価格になっていたので、購入してしまった。竹の茶杓でお茶を掬うところとは反対側に、漆で絵が描いてあり、一本は黒地に金、銀のひょうたん柄。もう一本は赤地に松竹梅が並んでいるもので、赤いほうはお稽古場に持っていった。
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