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フェイラーのハンカチ 【群ようこ 『今日も愛でたい』 第1回】

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 フェイラーという名前は昔から知っていた。デパートに売り場があり、前を通ると花柄のタオルが並んでいて、私の好みとは正反対だったので、自分には関係がないものといつも素通りしていた。肌触りはとてもいいのに、こんな大きな花柄でなければいいのにと残念だった。最初にフェイラーのタオルを買ったのは、知り合いの夫婦へのプレゼントだった。彼女はピンク色やオレンジ色、花柄やハートが大好きなタイプなので、気に入ってくれるのではと、バスタオルを選んだ。そして花柄ばかりと思っていたら、幾何学模様もあったので、彼女のパートナーにはそのバスタオルにした。試しに自分用に鳳凰柄のパラディスのフェイスタオルを買ってみた。
 花柄だけではないとわかってから、肌触りのいいフェイラーを気にはしていたのだが、私の母親世代の女性が、黒地に花柄のバッグを持っているのをよく見かけたので、やはりマダム向きという感じがしていた。フェイラーが身近になったのは、子ネコを保護してからだった。私の枕の横で寝たがるので、パラディスのタオルを敷いてやったら、ゴロゴロいいながら気持ちよさそうに体をこすりつけている。すでに子ネコのしもべとなっていた私は、子ネコ用にフェイラーのフェイスタオルを新たに購入し、枕の隣に敷いていた。たまに他のタオルにすると、ネコは私の顔をじっと見て、
「んー、んー」
 と不満そうに鳴いた。嫌なのかなと、フェイラーのタオルに替えると、すぐにその上で横になった。それからフェイラーはネコ様の必需品となり、亡くなったときもフェイラーのタオルを箱に敷いて葬儀場に連れていった。

 ネコが亡くなったのと入れ替わりのように、今度は私がフェイラーのタオルハンカチを使うようになった。ちょうど「タオルハンカチを持つようになると、おばさん」という記事を読んだのだが、更年期のせいで汗が多くなるのと、皺にならないので取り扱いが楽だからと書いてあった。私は更年期障害はなかったが、アイロンをかけずに使えるのは、大きな理由になった。
 最初に買ったハンカチは、ハイジという柄だった。小鳥、アヒル、てんとう虫、蝶の柄がとてもかわいい。かわいいものを排除してきた私だったが、年齢を重ねるにつれて、かわいいものに寛容になっていた。特に動物ものには弱い。バッグの中に入れるものくらい、かわいらしくてもいいだろうと、それからはタオルハンカチを何枚か買った。品質がいいので何回洗濯をしてもへたらないのもよかった。
 それから数年ほどして、編集者と打ち合わせをしていたら、彼女が、
「私は汗かきなので、タオルハンカチじゃないとだめなんですよ」
 とフェイラーのタオルハンカチを見せてくれた。それはゴリラの柄だった。
「えっ、そんな柄があるの?」
「今はいろいろな柄があるんですよ。私も動物好きなので、つい買っちゃいました。フェイラーにはマニアが多いらしくて、どの柄もすぐに品切れになっちゃうんですけど」
 それには「LOVERARY」のタグがついていて、そこにかわいいもの系が集まっているという。家に帰って早速サイトを見てみると、動物ものがたくさんあった。私はまずゴリラ、ハリネズミ、クマ&ウサギ&シカの柄、冬景色のなかのリス&キツネ&トナカイ&クマ、様々な種類のネコたちの顔がずらっと並んでいる柄などを購入した。同じく様々な犬種のイヌの顔が並んでいるデザインもあった。他にも「ラーメンイッチョウ!」「ハッピーオムライス」「オースシ」「トリアエズビールデ!」、覆面プロレスラーの「ラブラリーファイター」、力士の「ハッケヨイ」などの柄もあって、サイトではマダム好みと、かわいい系の柄が共存しているのだった。

 編集者の彼女がフェイラー情報にけていると思ったら、メールマガジンを購読していて、入荷情報がすぐにわかるようにしているのだそうだ。そのおかげで私は、鳩居堂とのコラボの限定品のハンカチをいただくことができた。彼女は私も仲間になったと知り、今年の頭に年女の私にウマさん柄のタオルハンカチをくださった。そしてかわいい子ばかりの「リトルモンスター」、最新は、私が弁当好きなのを知って、「ワクワクベントウ」をプレゼントしてくれた。おにぎり六個にエビフライまである豪華なお弁当柄だが、中央にはタコさんウインナーがちゃんといた。たたんでしまうと外から見える部分は少ないが、広げて使うときはいつも楽しい。基本的にはプレゼント用なのかもしれないけれど、自分用に買うのもまた楽しい、実用的なかわいいものなのである。

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次回は6月10日(水)公開予定です。

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新刊紹介

群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『捨てたい人捨てたくない人』、エッセイに『還暦着物日記』『スマホになじんでおりません』『老いてお茶を習う』『六十路通過道中』『ちゃぶ台ぐるぐる』『かえる生活』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』』など著書多数。

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