よみタイ

魚料理のニューノーマル。煮る、焼くの次に来るのは“ゆで”だ!

あらゆる選択肢のなかから、食の楽しみを自由に得られるようになった現代日本で、
本当の「おいしさ」はどこにあるのか——?
『異国の味』『東西の味』に続く、稲田俊輔による「味3部作」連載、第3弾!

魚料理編の2回目は、つい煮るか焼くかになってしまう魚料理の、新しい調理法について。

煮魚・焼き魚  〜クックパッド投稿数から推定する、家庭料理の「戦闘力」〜

 日本人の魚離れに関してはずいぶん昔から言われ続けていますが、あくまで僕の印象としては、案外まだ健闘しているのでは、というイメージもあります。魚離れと言っても前回取り上げた刺身に関しては、切って盛り付け済みの商品が主流になったこともあってか、衰え知らずな状況です。寿司も相変わらず大人気。なのでかつてより明らかに減っているのは、煮魚や焼き魚といった火を通す魚料理ということになるのでしょう。しかしスーパーの売り場面積だけを見れば、お刺身コーナーにそれほど引けを取らない印象もあります。
 僕の住む街のスーパーは、加熱用の鮮魚コーナーがそれなりには充実しています。切り身だけではなく、メバルなどの一本なりの魚も、他のスーパーより多く置かれています。ただしその理由を考えた時、もしかしたら近所にそういうものをよく買う層が多く住んでいるだけなのでは、という気もします。この街は、比較的裕福な家持ち高齢者が多く住むエリアなのです。だからこの街に限らず煮魚・焼き魚用の魚の需要は、特定の年代以上の高齢者によって集中的に支えられているということなのかもしれません。

 ここまでも度々、クックパッドの投稿数で、その料理が現代においてどの程度ポピュラーかを推定してきました。今回からこれを「クックパッドスコア」もしくは略してCPSと呼びたいと思います。だいたい『ドラゴンボール』における戦闘力をイメージしていただければいいと思います。ドラゴンボールにおいて戦闘力の数値が必ずしも勝敗に直結するわけではないのと同様、CPSがそのままその料理の人気や作られる頻度を決定するわけではないけれど、確実にひとつの目安にはなるでしょう。
 これまでの最高ランクは、ハンバーグの50000CPS。ドドリアさんやザーボンさんをも遥かに凌ぐ強者っぷりです。では煮魚はどうか。こちらはたったの1700CPS。もはや比較にすらなりません。クックパッドの投稿者は、30代の女性が中心層だそうです。僕は「意外と若いなあ」と驚いたのですが、皆さんはどう感じられますでしょうか。ともあれこれは、子育て世代のお母さんが中心、とも言えるでしょう。子育て中の自宅でできる実益を兼ねた趣味と考えると確かに納得できますし、クックパッドが果たしている社会的な役割の大きさにも気付かされますね。レシピ自体の精度どうこうの話ではないのです。
 ともあれこの世代は、煮魚からかなり遠ざかっているということは言えそうな気がします。煮魚は子どもに好かれない、という理由もあるのかもしれません。そしてそのレシピ内容を個々に見ていくと、ある特徴に気付きます。
 そのことについて語る前に、ハンバーグの強さについて少し解説します。ハンバーグは、オーソドックスなハンバーグ、およびそこにチーズなどをトッピングする程度のちょっとしたアレンジと、素材や調味料そのものから工夫が凝らされた創作的なもの、その両方がまぜこぜで並んでいます。つまりバトル漫画的に言うならば「攻守のバランスがいい」ということになるでしょうか。
 それに対して煮魚には顕著な特徴があるのです。見事なまでにオーソドックスなものばかり。「基本の」「黄金比」といったワードがやけに目につきます。強いていうなら、白だしや麺つゆが使われているものがちらほらあるという点は若干今どき風ですが、そうであっても言うなれば守備特化型。昨今は和食も含めて様々な煮込み料理が、トマト缶を使うような「イタリアン風」にアレンジされがちですが、煮魚ではそういうものはまず出てきません。エスニック風とか中華風ならもっといくらでも工夫できそうですが、それすらもあまり見当たりません。伝統文化がそのまま保たれているという意味では良いことなのかもしれませんが、逆に言えばこれ以上の進化が期待されていないし求められてもいないということにもなり、寂しくもあります。

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 焼き魚のスコアは、約2000CPS。煮魚より少しマシ、程度ですね。ただしこちらは創作系がそれなりに登場しており、煮魚よりずっと活気を感じます。バジルやトマトが使われるイタリアン風アレンジがしばしば登場するあたりは、順当にコンテンポラリーな進化を遂げているようで、なぜかちょっとホッとします。一時期の塩麹ブームの恩恵も受けていて、そのあたりは粕漬や西京漬の現代版という風情もあり、やはり未来はそれなりには明るそうです。
 また焼き魚の場合は、実際に一番作られているのは単に塩を振って焼いただけのものとも思われ、それはスコアにはほぼ反映されませんから、実際の人気はもう少し上振れしそうでもあります。ただし一方で焼き魚は、塩焼きにする際の匂いや煙が嫌がられて衰退しているという話もあり、むしろスコアに現れない部分、つまり切り身を使った様々なアレンジ料理以外の衰退幅が大きいのではないかとも思われます。

イラスト:森優
イラスト:森優

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稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』『東西の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。

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