よみタイ

魚料理のニューノーマル。煮る、焼くの次に来るのは“ゆで”だ!

 さてそんな世の流れの中で、僕は10年ほど前に金沢で、「ゆで魚」という郷土料理に出会いました。文字通り、イワシやニギスなどの小魚を塩水で茹でるだけの料理です。至って素朴、というかシンプル極まりない料理ですが、僕はコロンブスの卵的な衝撃を受けました。それがその単純さに反してすこぶるうまかったこともあり、僕はこれこそが、煮魚、焼き魚に続く「第三の選択肢」であり、むしろそのふたつよりも現代的な調理法なのではないかと直感したのです。
 つまり、煮魚のように昭和的な甘から醤油味に縛られて「黄金比」を追い求めることもなく、焼き魚のように煙や匂いに悩まされることもなく、簡単にストレスなく作れる点が最大のストロングポイントだと感じました。また現代は焼き鳥でも焼肉でもなんとなく、「塩味が偉い」みたいなグルメ的価値観があります。その風潮の是非はともかく、シンプルな塩味はトレンドとも言えます。
 そしてゆで魚はシンプル極まりないだけに、そこからいかようにもアレンジがききます。僕が初めてこの料理をSNSで投稿した時の写真を見返したら、ルッコラとトマトのサラダが一緒に映り込んでいました。(みんな大好きな)イタリアン的なアレンジにとても向いているのも、この料理の特徴のひとつです。

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 ゆで魚に関しては、面白い現象がありました。この数年くらいで、複数の料理家さんによる「魚を茹でる」レシピをちらほら見るようになったのです。こういうことがあると世間ではよく「パクリ」みたいなことが言われたりもしますが、僕はそういう話ではないと思います。
 以前漫画家の吉田戦車さんと話していた時に、興味深い話を伺いました。1980年代後半にいわゆる「不条理漫画」や、それを彷彿とさせるコントなどが一斉に世に出たのは、誰かが誰かの真似をしてというより、世の中の流れや空気感が同時多発的にそれを生み出したのではないか、という戦車氏自身の実感です。いわゆる「シンクロニシティ」ですね。
 また1990年代、ミュージシャン・カジヒデキ氏も、自分たちと価値観を同じくするような音楽のムーブメントが世界各地のインディーズシーンで同時多発的に生まれた、という実感を語られていました。名曲「ラ・ブーム〜だってMY BOOM IS ME〜」は、その実感を歌詞に込めたものだそうです。

 そんなサブカル蘊蓄はともかく、とりあえず現在、煮魚や焼き魚が置かれている状況はこんなところです。水産資源の枯渇問題等も含め、全体としてその未来は決して明るくはなさそうです。しかしそれでも、残したい日本の食文化なのは間違いありません。そして皆さまにおかれましては、この機会に「ゆで魚」のこともお見知りおきいただければ幸いです。
ゆで魚、一部界隈で少し盛り上がったとはいえ、現時点でのスコアはたったの14CPS。亀仙人にすら遠く及びません。

次回は9/11(金)公開予定です。

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稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』『東西の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。

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