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アン・ハサウェイが演じ分けた「働く女性像」――『マイ・インターン』から学ぶ、弱点を晒して信頼関係を築く方法

 ジュールズがCEOを招く気になった背景には、会社のことを任せられる人材を置くことで、夫婦関係を修復したいという切実な願いがあった。最終的に、ジュールズはCEOを招かない決断を下し、引き続き自身が中心となって経営を行うことにする。また、ジュールズの夫のマットが会社までやってきて自身の浮気を謝罪したことで、二人は夫婦関係の再構築に向かって歩み始める。

 彼女の決断を支えたのは、ベンの存在である。公私にわたる得難いサポート役の後押しを受けて、ジュールズは踏ん切りをつけることができた。ジュールズ自身の言葉を借りるならば、彼女にとってベンは「インターンであり最高の友人」である。ジュールズの言葉を聞いたベンは、満足そうに何度も頷く【図8】。彼が定年後に新たな職に就き、生きる糧を得られたのはジュールズのおかげである。二人の関係はお互いの人生を高めあっているのである。

【図8】
【図8】

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『プラダを着た悪魔』のミランダとアンドレアが別々の道を行ったのとは対照的に、『マイ・インターン』のジュールズとベンは生涯にわたるであろう友情を育み、強い絆で結ばれた。ベンは引き続きジュールズの会社にとどまって業務に従事するとともに、プライベートにおいてもよき友人であり続けるだろう。

 ミランダもジュールズも、自らの弱さを晒すことで部下の共感を獲得した点は共通している。二人の決定的な違いは、ミランダがあくまで自分のスタイルを変えようとしなかったのに対して、ジュールズが柔軟に自分自身を変えていった点に求められるだろう。

 似たようなテーマを扱う映画を比べると、それぞれの特徴がより際立つことがある。また、映画はその時代の社会の価値観を色濃く映し出すメディアである。同じテーマであっても、公開された年代によって描かれ方や強調される点は自ずと異なってくる。そうした比較を通して社会のありようを捉え直し、ひいては自分の生き方を見つめ直すことができるのも、映画の大きな魅力の一つである。

【図版クレジット】
【図1〜8】『プラダを着た悪魔』デイビッド・フランケル監督、2006年(DVD、ウォルト・ディズニー・ジャパン、2018年)
【図4〜8】『マイ・インターン』ナンシー・マイヤーズ監督、2015年(DVD、ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント、2016年)

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伊藤弘了

いとう・ひろのり 映画研究者=批評家。熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授。1988年、愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。著書に『仕事と人生に効く教養としての映画』(PHP研究所)がある。

Twitter @hitoh21

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