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デジタル格差は続くよ、どこまでも⁉ 第16回デジタル下層民の生き方

あってはいけない差別、使ってはいけない言葉。 昨今の「反・上下差」の動きは、2015年に国連加盟国で採択されたSDGsの広まりにより急速化した。 差別や格差を無くし、個々の多様性を認め横並びで生きていきましょう、という世の中になったかに見えるものの……。 貧困差別、ジェンダー差別、容貌差別等々、頻繁に勃発する炎上発言に象徴されるように、水面下に潜った上下差への希求は、根深く残っているのではないでしょうか。 名著『下に見る人』の書き手、酒井順子さんが、生活のあちこちに潜む階級を掘り起こしていく連載です。
イラストレーション:石野点子
イラストレーション:石野点子

第16回 デジタル下層民の生き方

 近所にあるパソコン教室の看板には、
「同じことを何度聞いても大丈夫!」
 と、大きく書いてあります。
 パソコンを学ぼうとしている人、特に高齢者は、おそらく同じ質問を何度もしがち。スマホの使い方などを子や孫に聞くと、
「おじいちゃんったら、この前も同じこと言ったよね!」
 などとイライラされるのであり、デジタルがらみのことを他人に質問することに対する恐怖がしみついているのでしょう。パソコン教室はその辺りの高齢者心理を把握しているので、
「同じことを何度聞いても大丈夫!」
 という宣伝文句を考えたのではないか。
 子や孫の気持ちも、わからなくはありません。近所の高齢のご婦人から、たまにスマホの使い方について質問されるのですが、確かに教える側には、忍耐強さが必要。「アプリ」といった基本的な用語、というか概念がわからなかったり、タップという行為ができなかったりする相手に教えるのは非常に根気がいるのであり、「きっと子や孫にはあまりしょっちゅう質問できないから、他人の私に聞くのだな」と思われたのです。
 八十代であれ九十代であれ、スマホを持っているのが当たり前の今。とはいえLINEのやりとりあたりまではできるようになっても、インターネットでの買い物や様々な予約等には、手を出せずにいる高齢者が多いようです。
 現在では様々な手続きがネット上で行われるようになり、またペーパーレス化も進んで、なにかにつけ「詳しくはネットで」ということになっています。ネットが使用できない高齢者は、離れ小島に住んでいるような状態になり、多くの情報から切り離されているのです。

 銀行の振込み一つとっても、ネットバンキングなら無料でできるのに、窓口で振り込むと数百円の手数料がかかる。ホテル等の予約についても、ネットでした方が、その他の手段経由よりも安い価格設定になっています。非ネット民すなわち高齢者は疎外されるだけでなく、損をする仕組みになっているのです。
 高齢者であっても新規開拓傾向が強い性質の場合は、何歳であってもネットの世界に果敢に飛び込み、SNSの発信までしていたりするもの。対してそうでない人の場合は、
「便利なのだろうけど、怖い」
「勉強する気にもならないし、今までと同じ生活を続ければいいだけだから、もういいよ」
 ということで、アナログ世界にとどまり続けるのでした。
 そう思うのはちっとも悪いことではないにもかかわらず、ネットに及び腰の高齢者は様々な利便性の外に置かれることに。デジタル格差は、年齢格差、そして性質格差につながっています。
 本当であれば、高齢者こそネットショッピングを利用して、重いものや大きなものを家まで届けてもらえば助かるだろうに、と思う私。ネットとつながっていない高齢者には、たとえば福祉を学ぶ学生が実習の一環として使い方を教えてあげるとか、公的支援を受けられるようにするといった手段があってもいいのでは、と思うのです。

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新刊紹介

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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