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内閣の「孤独・孤立対策」は若年性孤独者たちに届くか 第9回 現代の隠遁者たちの見えない本音

あってはいけない差別、使ってはいけない言葉。 昨今の「反・上下差」の動きは、2015年に国連加盟国で採択されたSDGsの広まりにより急速化した。 差別や格差を無くし、個々の多様性を認め横並びで生きていきましょう、という世の中になったかに見えるものの……。 貧困差別、ジェンダー差別、容貌差別等々、頻繁に勃発する炎上発言に象徴されるように、水面下に潜った上下差への希求は、根深く残っているのではないでしょうか。 名著『下に見る人』の書き手、酒井順子さんが、生活のあちこちに潜む階級を掘り起こしていく連載です。
イラストレーション:石野点子
イラストレーション:石野点子

第9回 現代の隠遁者たちの見えない本音

 新型コロナウイルスの世界的流行の中、イギリスでいち早くワクチン接種を開始したり、公共施設内でのマスク着用義務を撤廃したりしたのを見て、「さすが」と思ったものでした。イギリスは保守的な国に見えるけれど、歴史を振り返れば、いざという時にはすることが極めて先鋭的。コロナ対応においても、そのお国柄が見られたのです。
 イギリス王室メンバーのスキャンダルを見ても、王室の人々がやらかすことの大胆さは、日本の皇室の比ではありません。「プリンセスの恋人のお母さんが、元彼からお金をもらっていた」程度のことで大騒ぎをしている日本の皇室スキャンダルが、微笑ましく見えるほどに。
 そんなイギリスで二〇一八年に、「孤独問題担当国務大臣」が任命されたというニュースを見た時も、私は「さすが」と思ったことでした。孤独は個人でどうにかする問題だと思っていたけれど、イギリスではそれを国としてのリスクだと判断。社会問題として捉えて解決しようとするという姿勢が斬新である、と膝を叩いたのです。
 二〇二一年には、日本でも内閣官房に孤独・孤立対策担当室という部署が作られ、孤独・孤立対策担当大臣というポストもできました。コロナが長引くにつれ、自殺の増加といった孤独が関係した問題がクローズアップされはじめていた、当時の日本。そんな時に素早くイギリスの真似をするというのも、日本らしいやり方と言えましょう。
 ちなみに孤独・孤立対策を担当する大臣は、他にも「こども政策」や「共生社会」や「女性活躍」や「少子化対策」や「男女共同参画」などを担当する大臣でもあります。してみるとこの大臣は、女、子供、ぼっち等、「まっとうな男」以外の弱者達の問題をまとめて担うという重責を負っているのでした。部署や大臣をつくったからといって問題が解決するわけではないことは、この大臣の任務の数々を見るとよくわかりますが、とはいえ日本において孤独問題が深刻化していることが明るみに出た、という意義はあるのかも。
 孤独のつらさは、子供でも知っています。子供が誰かをいじめる時に「無視」という手法をとりがちなのは、一人ぼっちにさせることがいかに大きなダメージを相手に与えるか、わかっているが故。子供は、いじめ対象を孤独(内閣府的な言い方をすれば、それは「孤立」になるのかもしれませんが)にさせる一方で、自分には友達がいて孤独ではないのだ、ということを相手に見せつけるのです。

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酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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