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シンデレラ型と白雪姫型の埋まらない感覚格差 第15回 コスプレ慣れした世代のプリンセス像

あってはいけない差別、使ってはいけない言葉。 昨今の「反・上下差」の動きは、2015年に国連加盟国で採択されたSDGsの広まりにより急速化した。 差別や格差を無くし、個々の多様性を認め横並びで生きていきましょう、という世の中になったかに見えるものの……。 貧困差別、ジェンダー差別、容貌差別等々、頻繁に勃発する炎上発言に象徴されるように、水面下に潜った上下差への希求は、根深く残っているのではないでしょうか。 名著『下に見る人』の書き手、酒井順子さんが、生活のあちこちに潜む階級を掘り起こしていく連載です。
イラストレーション:石野点子
イラストレーション:石野点子

第15回 コスプレ慣れした世代のプリンセス像

 小さな女の子達が、ハロウィンやディズニーランドへ行った時にしがちな、プリンセスの扮装ふんそう。昨今は、七五三や誕生日の時なども、女の子がプリンセス的な衣装をつけてフォトスタジオで写真を撮るといった慣習も見受けられます。
 そんな姿を見ると、
「我々は、プリンセスに憧れ損ねた世代なのかもしれない」
 と思うのでした。自分が子供の頃、「プリンセスの格好がしたい」などという発想はまるでなかったなぁ、と。
 ディズニー映画におけるプリンセスの肌の色が問題視されたり、また王子様と結婚したからといって必ず幸せになるわけではないことがわかってしまったりと、プリンセスを巡る状況は、必ずしもキラキラしているばかりではありません。しかし我が国の親御さんの中には、「女の子はみんな、プリンセスに憧れるよね〜」とばかりに、娘にプリンセスの扮装をさせたがる人もいる。SNS映えする画像を撮るために着せたい、という気持ちもそこにはあるのでしょう。
 SNSの中には、自分の子供を「うちの姫」「うちの王子」と呼ぶ親御さんもいます。「豚児」などと呼んでいた時代は遠くなりにけり、なのです。
 東京ディズニーランドは一九八三年に開園していますから、小さい娘を持つ親御さんは、自身も子供の頃からディズニーランドに行っていたことでしょう。親子二代で、物心ついた時からディズニーのパレードで生のシンデレラや白雪姫を眺めていたならば、「プリンセスになってみたい」「プリンセスの格好をさせたい」という気持ちにもなりましょうや。
 自分の幼少期を振り返れば、ディズニーランドはまだ千葉の地に誕生しておらず、シンデレラや白雪姫は、物語の中の人。憧れる対象ではありませんでした。我々にとってプリンセスといったら、西洋の姫よりも、かぐや姫やらつる姫(『つる姫じゃ〜っ!』というギャグ漫画が昭和時代に人気だった)といった、和風の姫の方が親しみ深かったかも。
 コスプレというレジャーも、日本には普及していませんでした。我が人生における姫経験といえば、幼稚園のおゆうぎ会で、かぐや姫役に抜擢ばってきされた時のみ。さちこちゃんとのダブルキャストだったものの、あの頃が人生の頂点だったものじゃ……。
 

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新刊紹介

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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