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京都人の田舎憎悪は兼好法師の時代から生き続けて 第12回 東西の都の片憎みと片思い

あってはいけない差別、使ってはいけない言葉。 昨今の「反・上下差」の動きは、2015年に国連加盟国で採択されたSDGsの広まりにより急速化した。 差別や格差を無くし、個々の多様性を認め横並びで生きていきましょう、という世の中になったかに見えるものの……。 貧困差別、ジェンダー差別、容貌差別等々、頻繁に勃発する炎上発言に象徴されるように、水面下に潜った上下差への希求は、根深く残っているのではないでしょうか。 名著『下に見る人』の書き手、酒井順子さんが、生活のあちこちに潜む階級を掘り起こしていく連載です。
イラストレーション:石野点子
イラストレーション:石野点子

第12回 東西の都の片憎みと片思い

 地方の人はしばしば、
「東京の人は冷たい」
 と言うものです。昔の歌謡曲でも、上京する若者に対しては、「都会に染まるな」といった言葉が投げかけられているのであり、東京には、何か悪いものが渦巻いているというイメージがあるようなのです。
 東京に住む身としては、その手の言説に触れると、少し寂しい気持ちになるもの。都市には人がたくさんいるので、見知らぬ人と安易にかかわらないということが一種のマナーとなっており、それが「冷たい」と見えるのかもしれません。が、東京人も人の子。善人もたくさんいるのに、と。
 ある地方では、
「○○さんは東京の人にしては珍しく、とてもいい人だ」
 と、共通の知人を褒める人がいました。私が東京の人間だということを知った上での発言と考えると、私の性格を非難したいのか、東京人全体を非難したいのかよくわからなかったのですが、とにかく東京人のことが嫌いなのだ、ということはよくわかった。
 そんな折、京都の人も東京人と同じようなことを言っていたのです
「『京都の人って、言ってることと思ってることが違うんでしょ?』って無邪気に言われたことがあって、傷ついた」
 と。
「お客さんに、本当に『ぶぶ漬けいかがです?』って言うんですか」
 という質問もしばしば受けるそうで、
「そんなん言わへんワ!」
 とも言っていました。
 

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新刊紹介

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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