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イタリアン店主の急所を突く「パスタ2皿だけの客」

繰り返される客側とお店側の攻防

 早いものでそれから20年以上の年月が経ちましたが、この状況は実のところ今もそんなに大きく変化していないような気もします。
 つい最近もSNSで、イタリアンレストランでパスタしか頼まなかったらお店の人に冷たくされた、みたいな投稿に大量の賛否が集まり「炎上」しました。恐ろしいことにその店は特定され、その気取らないカジュアルな店内写真は「こんな喫茶店に毛の生えたような店のくせに偉そうだ」という、血も涙もない「個人の意見」と共に拡散されました。
 また別のあるお店では、メニューが「冷前菜」「温前菜」「パスタ」「メイン」の4ページに分かれているのですが、最初のページの一番目立つ位置に「2名様でしたら各ページから1品ずつお選びください」というような内容が明記されています。そして更に、同じ文言がパスタのページにもう一度、黒く太い枠線で囲まれて念を押すように登場します。
 正直ちょっと警戒心過剰なようにも見えなくもありませんが、その店はこぢんまりとした家庭的な雰囲気の店であることもあって、そこまでしないと「スパゲッティ屋さん」と誤解される恐れが今もあるということなのかもしれません。

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 もちろんこれらの事例は、単に、イタリアンレストランでの注文の仕方を親切に教えてくれている、と解釈することも可能です。
 とみに最近は、先輩が後輩を「大人の店」に連れ回すようなことや、男子が女子をデートに誘うために「デートマニュアル」を読み込んで必死に予習する、みたいな風潮が失われており、お店での適切な振る舞い方が伝承されにくくなっている面もあるのかもしれません。

 料理そのものに関しては、ある種の定型化がますます進んでいるようにも見えます。鮮魚のカルパッチョ、シーザーサラダ、生ハム、日本式カルボナーラ、ピッツァマルゲリータ、ティラミス、みたいな世界です。イタリア料理が日本人みんなのものになった結果、好まれやすい料理とそうでない料理は明確になり、その当然の帰結としてメニューや味は画一化していきます。
 都会ならまだ、個性的で「尖った」店が一部で成立しますが、それはあくまで一部ですし、地方に行くに従って、そして地域密着型の店は特に、そういう画一化、言い換えれば「最適化」への圧からは逃れにくくなります。
 イタリア料理を取り巻く一般の環境は、90年代においてすでに成熟し、その時点から現在に至るまで実はあまり変わっていないのかもしれません。

次回は6月9日(金)公開予定です。

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。最新刊は『東西の味』。

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