よみタイ

スパゲッティがパスタと呼ばれ始めた日

パスタを「スプーンとフォークで食べる」の発祥

 そんな呪縛のひとつに、「右手でフォーク、左手でスプーンの『二刀流』」があります。最近では「イタリアではパスタはフォーク1本で食べるのが正式であって、スプーンを併用するのは子供だけ」というウンチクは、すっかり巷間でも広まっています。ですがやっぱり「二刀流」は、ほとんどの店でまだ健在。おそらくこれからもそれが覆ることはそうそうないでしょう。
 この二刀流も、おそらくハザマの時代に定着した文化だと思います。ナポリタンの時代は、もちろんフォーク1本、しかもそれは「3本歯」でした。それに対する差別化、あえて下卑た言葉を使えば「マウンティング」が、二刀流(そして4本歯のフォーク)でした。そして日本人はそれが本式だとすっかり思い込んでしまったというわけです。
 その誤解がほぼ解けた現代でも、結局それは生き残りました。生き残った最大の理由は、パスタソースそのものにあると思います。日本のパスタのソースは、材料の構成自体はイタリアそのままである場合でも、サラサラ汁だくに仕立てられることが多いそうです。現地のように硬質チーズや煮詰めたクリームで繋いだ、つまりフォーク1本で食べても最後にソースが残らないどっしりとしたテクスチャーのパスタは、日本人には少々重すぎるのでしょう。
 こういう文化の混淆こんこうが、現代日本の「本場風のようで微妙に本場そのものではなく、でもそれなりには本場を踏襲とうしゅう」という、独特なイタリアン文化を作り上げたと言えるのではないでしょうか。

次回は5月12日(金)公開予定です。

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)の展開に尽力する。
2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。
Twitter @inadashunsukeなどで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。
著書に『おいしいもので できている』(リトルモア)、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』『飲食店の本当にスゴい人々』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(柴田書店)、『チキンカレーultimate21+の攻略法』(講談社)、『カレー、スープ、煮込み。うまさ格上げ おうちごはん革命 スパイス&ハーブだけで、プロの味に大変身!』(アスコム)、『キッチンが呼んでる!』(小学館)など。近著に『ミニマル料理』(柴田書店)、『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』(西東社)、『インドカレーのきほん、完全レシピ』(世界文化社)、『食いしん坊のお悩み相談』(リトルモア)。

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