2023.2.10
あんなに「パリ」好きな日本人なのに…「フランス料理」を食べたい人はどこにいる?
「現地風の店」が出店すると、なぜこれほど日本人は喜ぶのか。
日本人が「異国の味」に求めているものはなんなのか。
博覧強記の料理人が、日本人の「舌」を形成する食文化に迫るエッセイ。
前回は、日本人が持つ「フランス料理」へのイメージと、その自縄自縛の現状について考察しました。
フランス料理回の締めとなる今回は、日本におけるフランス料理の、ある不都合な真実が明らかに…?
日本人、実はフランス料理があまり好きじゃない説
既に引退した、あるフランス料理シェフから聞いた、ちょっと面白いエピソードがあります。シェフの修業のスタートは1970年代、そこは一流ホテルのフランス料理店でした。そのホテルの料飲部では、定期的にレクリエーション的な会合が開かれていました。いかにもその時代らしい福利厚生の一環ですね。
ある時からそのシェフ、いや当時で言うと「コックさん」は、その会合の料理を毎回任されることになりました。習い覚えたばかりのフランス料理で先輩たちをもてなすわけですから、ある意味チャンスです。そしてその新人コックさんはそれをうまくやってのけました。「あいつはなかなかできるぞ」という確かな評価を得たのです。
自信をつけたコックさんは、ある時、フランス料理ではなく中華料理を用意しました。たまには少し目先を変えた方がみんな喜ぶのではないか、という単純な思いつきだったそうです。見よう見まねの中華でしたが、驚いたことにそれは、溢れんばかりの大絶賛でした。先輩たちは口々に「今までで一番うまい!」と大喜び。
しかしその後、コックさんは先輩コックさんに人目につかない場所に呼び出されます。先輩コックさんは煙草を燻らせながらこう言いました。
「お前、いい気になっとったらあかんぞ。あんなもん誰でもおいしいって言うに決まっとる。次からはまたちゃんとフランス料理を作れ」