よみタイ

あんなに「パリ」好きな日本人なのに…「フランス料理」を食べたい人はどこにいる?

日本ほど「外国料理」をありがたがる国はない…!
「現地風の店」が出店すると、なぜこれほど日本人は喜ぶのか。
日本人が「異国の味」に求めているものはなんなのか。
博覧強記の料理人が、日本人の「舌」を形成する食文化に迫るエッセイ。

前回は、日本人が持つ「フランス料理」へのイメージと、その自縄自縛の現状について考察しました。
フランス料理回の締めとなる今回は、日本におけるフランス料理の、ある不都合な真実が明らかに…?

日本人、実はフランス料理があまり好きじゃない説

 既に引退した、あるフランス料理シェフから聞いた、ちょっと面白いエピソードがあります。シェフの修業のスタートは1970年代、そこは一流ホテルのフランス料理店でした。そのホテルの料飲部では、定期的にレクリエーション的な会合が開かれていました。いかにもその時代らしい福利厚生の一環ですね。
 ある時からそのシェフ、いや当時で言うと「コックさん」は、その会合の料理を毎回任されることになりました。習い覚えたばかりのフランス料理で先輩たちをもてなすわけですから、ある意味チャンスです。そしてその新人コックさんはそれをうまくやってのけました。「あいつはなかなかできるぞ」という確かな評価を得たのです。
 自信をつけたコックさんは、ある時、フランス料理ではなく中華料理を用意しました。たまには少し目先を変えた方がみんな喜ぶのではないか、という単純な思いつきだったそうです。見よう見まねの中華でしたが、驚いたことにそれは、溢れんばかりの大絶賛でした。先輩たちは口々に「今までで一番うまい!」と大喜び。
 しかしその後、コックさんは先輩コックさんに人目につかない場所に呼び出されます。先輩コックさんは煙草をくゆらせながらこう言いました。
「お前、いい気になっとったらあかんぞ。あんなもん誰でもおいしいって言うに決まっとる。次からはまたちゃんとフランス料理を作れ」

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)の展開に尽力する。
2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。
Twitter @inadashunsukeなどで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。
著書に『おいしいもので できている』(リトルモア)、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』『飲食店の本当にスゴい人々』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(柴田書店)、『チキンカレーultimate21+の攻略法』(講談社)、『カレー、スープ、煮込み。うまさ格上げ おうちごはん革命 スパイス&ハーブだけで、プロの味に大変身!』(アスコム)、『キッチンが呼んでる!』(小学館)など。近著に『ミニマル料理』(柴田書店)、『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』(西東社)、『インドカレーのきほん、完全レシピ』(世界文化社)、『食いしん坊のお悩み相談』(リトルモア)。

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