2021.9.11
「産まない」選択はできない。セックスレスに傷つき、不倫に走った妻が下した最後の決断(第17話 妻:麻美)
「産まない」選択ができるほど、強い女ではない
剥きたての卵のような、友里恵の子どもの柔らかそうな白い肌が忘れられない。
そして、夜中のマンションのロビーで、疲れながらも愛おしそうに我が子を撫でていた母の顔。何も言わずとも分かる。彼女は自分の子どもが可愛くて可愛くて仕方がないのだろう。そこには絶対的な愛があった。
きっと、男で得られる一時的な恋愛感情など比にならない愛。
今どき、子どもを産むことばかりが女の幸せなどと思うわけではない。とはいえ、自分が子どもを望めない理由もないはずだ。麻美はまだ32歳で夫もおり、経済的に余裕もある。「できない」と決まったわけでもないのに、みすみすその可能性を手放すなんて酷く理不尽ではないだろうか。
「…………」
麻美は悔しさに一人唇を噛む。
このご時世、子どもなど産まずとも、独身でも、生き生きと人生を歩んでいる女性はいくらでもいる。
けれど麻美は結局のところ、表面的なステータスに守られていないと自分で自分の価値を認められないのだ。最近は起業や晋也との時間で気を紛らわせてはいたが、揃えるべきカードはすべて揃えない限りは、こうした卑屈な気持ちをいつまでも捨てられないだろう。
「産まない」選択ができるほど、強い女ではないのだ。
――子どもが産めないなら、やっぱりこうちゃんと結婚してる意味なんかない……。
妻の屈辱的な思いは、夫への怒りへと変わっていった。