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妻と間男の密会を目撃…浮気を知った夫が、逆に「離婚はしない」と決めた理由(第16話 夫:康介)

あなたは「結婚」という制度に疑問を感じたことはないだろうか。 連日メディアを騒がせる不倫ゴシップは氷山の一角。女性の社会進出、SNSや出会い系アプリの普及……出会いの機会が爆発的に増える一方、多くの夫婦が良好な関係の維持に苦戦しているのもまた事実。セックスレス、不妊、モラハラ、DV……問題は山積みで、それが令和時代の夫婦を取り巻く現実だ。 これは120年以上も変わらない今の結婚制度に限界を感じ始めた夫と妻が、それぞれの視点で語るストーリー。 仮面夫婦状態の櫻井夫婦。夫・康介はクライアントである小坂瑠璃子と衝動的に一線を超え男女の仲に。反対を押し切り起業を決めた身勝手な妻・麻美に憤慨し「離婚してやる」と息巻くが、偶然にも妻と浮気相手の密会現場を目撃。すると急に心境の変化が……。 前話はこちら、全話一覧はこちら。 (隔週土曜で更新予定です)

見ず知らずの男に「女の顔」を見せていた妻

「櫻井はよく今まで耐えたよ。あんな、人を人とも思わないような事務所で……けどな、独立は慎重に考えた方がいい」

三軒茶屋の小料理屋に、栗林の声が響いている。ここは彼の行きつけらしく、他の客はおらず貸し切りだった。

以前、麻美とともに彼の自宅を訪れた際はしきりに康介の独立をプッシュしていたはずが、今夜の栗林は慎重論を推してくる。妻の前では否定せずにいてくれたが、彼の本音は最初からこちらだったのかもしれない。

「事務所を出たいのはわかる。ただ、言わなくてもわかってるだろうけど、独立して数人規模の事務所を開いたところで企業は取引してくれない。よっぽどコネクションや営業力があるなら別だが……些末な民事ばかりじゃ金にならないだろ」

栗林の話は正論だ。出世競争に敗れて居場所を失い、事務所を辞めていった仲間はたくさんいる。しかし独立後、軌道に乗せた者は数少ない。栗林はその、レアな人材のうちの一人なのだ。

「そう……ですよね……」

上の空だった意識を無理やりに戻し、相槌を絞り出す。しかしその声は明らかに浮いて聞こえた。

康介の将来を心配し、真剣にアドバイスをくれる栗林には本当に申し訳ないのだが……康介の頭の中は今、別のことでいっぱいだった。

振り払っても払っても、先ほど目の当たりにした残像――麻美が浮気相手に見せた「女の顔」が脳裏から離れないのだ。

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新刊紹介

山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

オフィシャルサイト●安本由佳
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Twitter●安本由佳|WEB作家@軽井沢

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