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「損する離婚はしたくない」〜妻に1,000万円を奪われた夫の、狡猾な戦略(第14話 夫:康介)

あなたは「結婚」という制度に疑問を感じたことはないだろうか。 連日メディアを騒がせる不倫ゴシップは氷山の一角。女性の社会進出、SNSや出会い系アプリの普及……結婚制度が定められた120年以上前とは、社会も価値観も何もかも違っているのだ。 これは時代にそぐわぬ結婚制度の抜け穴を探し始めた、とある夫婦の物語。 仮面夫婦状態の櫻井夫婦。夫・康介はクライアントである小坂瑠璃子と衝動的に一線を超え男女の仲に。妻の太々しい態度を腹に据えかねる康介は離婚を考え始めるが、「起業資金1,000万円を出して欲しい」という麻美の要求を渋々飲むことにした。その理由は……。 前話はこちら、全話一覧はこちら。 (隔週土曜で更新予定です)

妻の目を盗み、不倫相手との情事にふける不良夫

「先生、今日も来てくれて嬉しい」

息が上がるほどの激しさで二人して果てた後、瑠璃子が名残惜しげに肌を密着させてきた。康介は答えの代わりに彼女の肩を抱き、柔らかな二の腕を優しく撫でる。

黙ったまま西側の窓に目をやると、昼間だというのに閉められたカーテンの隙間から、オレンジ色の陽が差し込むのが見えた。

瑠璃子の寝室で裸のままこの景色を眺めるのは、今週すでに3度目だ。

康介の事務所でもリモートワークが推奨されているから、必ずしも出社する必要はない。かといって家には麻美がいて息が詰まるし、これまでは他に行く場所もなかったが、瑠璃子から「だったらウチで仕事して」と言われ、隙を見ては通うようになってしまった。

夜は必ず早い時間に戻っているから、疑われることはないはず――

そう考えて、閉じた瞼に勝ち誇ったような妻の笑みが浮かび、康介は瑠璃子に隠れて小さくため息を吐いた。

『開業資金1,000万円を、こうちゃんにお願いしたいの』

自分だって散々夜遊びしていたにもかかわらず、たった一度の朝帰りを盾に取り、当然のごとく大金を渡すよう迫ってきた妻。

離婚訴訟では負けナシの弁護士の名まで挙げて、ゆすりも同然だった。

別に、離婚が怖いわけじゃない。ハッキリ言って、麻美とは別れたっていいと思っている。彼女はもはや結婚当初の妻とは別人だ。

それでも麻美の言いなりになって1,000万円を振り込んでやったのは……康介なりに考えがあるのだった。

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山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

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安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

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