よみタイ

「クルド人の親のところに生まれたというだけで、日本で差別にさらされるとしたら本当に悲しい」……SNSで目にするヘイト投稿に心を痛める異国の友人(第5回 後編)

 今年のお正月、日本で過ごしていた私に思いがけずムハンマドから「新年おめでとう」のメッセージが届いた。私は、
「父の家にいて、親戚や友人に会えてにぎやかです。でも、あなたや他のクラスメイトたちの何人かが、家族と過ごせていないと思うと申し訳ない気持ちになります」
 と返信した。実際、クラスメイトの中には、何年間も母国に戻れていない人も少なくなかった。ムハンマドからの返信は、
「家族と一緒に時間を過ごせるのは本当にいいこと。家族と一緒にいられない人たちのことを気にかけてくれるのは、優しいね。感謝します。世界は興味深いと同時に、困難なことも多い。誰もが、それぞれ違う『チャンス』と『試練』を与えられる。自由のない人もいれば、自分は自由でも愛する人たちから遠く離れている人もいる。愛する人と一緒にいられても、健康ではない人もいる。誰もが、自分の人生の旅の中で何かと闘わなければならない。闘い続けてください」だった。

記事が続きます

 気温はマイナスでも日差しが明るくなってきた3月。図書館で再会したムハンマドは、以前より顔の陰影が濃く疲れているように見えた。難民認定の再申請をしているが、見通しの時期を過ぎてもまだいつになるかわからないという。フィンランド語クラスで一緒に勉強していたときのような明るさは消え、先の見えない状況にストレスを感じているようだった。
 フィンランドでは欧州の多くの国と同じように、日本の「仮放免」とは違い、難民申請が不認定になっても、再申請をして審査を待っているあいだは働くこともできるし、一時的な在留許可が出ることもある。それで、ムハンマドは週に4日、食品スーパーで働いている。もともとは、フィンランドで難民として認定されるまでの間にフィンランド語を勉強して、いずれは大学の修士や博士課程に進みたいという希望があった。けれども一度不認定になり、再申請に時間がかかっているために、フィンランド語の勉強を中断し、暮らしていくために仕事をしているのだという。
「再申請をしてからもう8か月たった。ひたすら結果を待つしかできることがないし、許可されなかったらトルコに送り返されてどんな悪いことが起きるか想像すると怖い。みんな違う状況だから、誰かに相談しても仕方がないし。ストレスを解消することはできないから、ストレスがあるという状況に慣れるように努力している」
 ムハンマドの表情には、目標を持てないまま、家族と離れて過ごす時間が長くなっていく苦悩がにじんでいた。
「国にとっては2年半という時間に過ぎないが、自分という一人の人間の人生の中では貴重な時間だ。子どもの誕生日も3回過ぎてしまった」
 いまは3月だ。ヘルシンキに住むクルド人たちを中心にして、「ネウロズ」というクルドの春のお祭りがどこかで開かれると聞いた。懐かしいお祭りでも見たら、少しはムハンマドの気が晴れないだろうか。
「僕は、何にしてもトルコにつながる人たちが集まるところには行かないことにしている。ネウロズに行けば誰かに写真を撮られるかもしれないし。トルコにいたときも、ネウロズには行っていなかった」と話した。
「私たちはクラスメイトで、同じ外国人で『その他』扱いだ」と思っても、私とムハンマドの置かれた状況はやはり全然違う。それに、「どこの国の人だから、こうだろう」という自分の中のステレオタイプにも気づかされた。

(連載の文中の肩書や組織、値段や為替レートなどはそれぞれ2026年時点のものです)

ヘルシンキ郊外で3月末に開かれた「ネウロズ」会場で、ピラフと香ばしいグリルチキンとサラダの組み合わせが美味だった。  撮影:堀内京子
ヘルシンキ郊外で3月末に開かれた「ネウロズ」会場で、ピラフと香ばしいグリルチキンとサラダの組み合わせが美味だった。  撮影:堀内京子

第6回前編は2026年4/28(火)公開予定です。

記事が続きます

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

関連記事

新刊紹介

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

堀内京子

ほりうち・きょうこ
ライター。1997年から2023年まで新聞記者。退職し、現在は二人の子どもとヘルシンキに滞在。著書『PTAモヤモヤの正体』(筑摩選書)、共著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)『まぼろしの「日本的家族」』(青弓社) 『ルポ税金地獄』(文春新書)、朝日新聞「わたしが日本を出た理由」取材班として『ルポ若者流出』(朝日新聞出版)がある。

週間ランキング 今読まれているホットな記事