2026.5.29
発売即重版御礼! 新刊『昼間のスターゲイザー』 鏡リュウジさんによる「あとがき」全文公開
星は昼も変わらず空で輝いているはずなのに、その瞬きは見えないし、存在も意識することもほとんどない――。「こころ」や「運命」をそんな星になぞらえ、占いと心理学から語り合った1冊です。
東畑開人さんのまえがき全文公開に続き、鏡さんのあとがきも全文公開します。
東畑さんのまえがきのタイトルは「はやくはじめたいまえがき」。これに対して、鏡さんのあとがきのタイトルは「終わりたくないあとがき」と、まるで返歌のようでもあり……。あとがきを公開するのはあまり例がないことかもしれませんが、お二人の信頼関係がひしひしと伝わってくる内容です。実は旧知の仲という鏡さんと東畑さんの笑いと親愛に溢れた会話も魅力の本書。ぜひ、この機会に一読ください。

終わりたくないあとがき 鏡 リュウジ
正直言いますね。筆がのりません。なかなか文章が出てこない。この「あとがき」を書くのに気乗りがしないのです。明日書こう、いや、またその次……なんて思いながら、もう何日も経ってしまいました。
これまでたくさんの本を書かせていただいてきましたが、「あとがき」を書くのがつらいなんてはじめての経験です。むしろ逆。本を書く工程で一番楽しいのが「まえがき」と、「あとがき」なんですよ。「まえがき」はこれからこんな本を書くぞー、こんなすごい本になるぞ!という意気込みを詰め込めますし、「あとがき」は、書ききったあとのほっとした気持ちを綴れる。ああ、これが本になるんだ、という喜びと不安が交じり合った興奮状態に突き動かされ、早く形になった完成品を見たいという高揚感にまかせて一気呵成に書けるのです。
でも、今回は違う。「あとがき」を書くのがつらい。僕はこのプロジェクト、東畑開人さんとの対話を終わらせたくないのですよ。「あとがきを書く」で儀式をして、この企画を終了させるのが惜しい。もっと言うと寂しいのです。それくらい、この四回にわたる対話は本当に楽しかった。
対談のあいだ中、僕がどれだけ楽しかったか(願わくば東畑さんも、だけれど)、お読みいただければビシバシと伝わっていくことと思います。だってこんなに話が通じ合って、さらに僕からどんどん言葉を引き出してくれる人はまずいない。年齢もバックグラウンドも全然違う東畑さんと僕だけれど、実は共通する面があるのです。
本文の繰り返しになりますが、僕は占いや魔法の世界に十代からどっぷり浸かりながら、心理学、とくにユング心理学の周辺をうろうろし続けていました。大学ではきちんと心理学を学んだわけではないのですが(一応、専攻に近いのは宗教学になるのかな)、関連の本をかなり読み、ときには翻訳し、専門の先生とお話しする機会もいただいてきました。
占星術をユング心理学のファクターを通して深めていこうとする動きは一九三〇年代にはすでに登場していますが、僕が深く占星術や魔法の世界の本を読み込んでいた一九八〇年代から二〇〇〇年頃まではユングの思想と占星術、魔法がもっとも接近した熱い時代だったと思います。日本では今一つだったけれど、少なくとも英語圏ではこれが一つの潮流になっていた。心理臨床家でもある知的な占星術家たちが本を書き、ワークショップを展開していた。心理学、とくにユング心理学の話法が占いを豊かに深めていました。こうした世界の空気を吸いながら、僕は占いを通して心理学の「手つき」を期せずして模倣するようになっていました。
一九九〇年代末頃からでしょうか、先の流れとオーバーラップするようにユング心理学と現代の魔法、占いを歴史の中に位置付けていこうとする流れが表に出てきます。占いを心理学の思想を用いて実践面で強化するのではなく、現代の占星術もユング心理学そのものも広義の意味での「秘教的」運動として捉え直そうとする動きです。これは、ユングの心理学も占星術も、共感的でありながらも相対化するスタンスだと言っていいでしょう。
心理学の臨床家としてトレーニングを積んだ東畑さんは、まず実践者としての強い筋肉がある。と同時に、沖縄の現代ヒーラーを調査し、医療人類学から現代の心理療法を相対化し、歴史の中に位置付けようとする東畑さんのまなざしは、実践者でありつつ観察者であることに自覚的でありたい僕と重なるところがあるわけです(学問の上でも実践の上でも僕なんかより東畑さんのほうがよほどしっかり研鑽されているので、共通しているなんて言うのはおこがましいけれど、少なくとも向いている方向は似ていると言いたい)。
話がはずむベースがまずはここにありました。
違いながらも共通する二人なんですから、ああ、ここはそうだよね、あそこはこうだよね、と「つながり」を容易に見つけることができる。と同時に、東畑さんが「まえがき」で書かれているように心理学と占いは「混ぜるな危険」でもある。その境界についても僕たちは意識を共有しながら話は進んでいきました。
こんな機会はめったにない。アカデミックな心理学と野の医術である占いのかくも楽しい饗宴を、僕はこの「あとがき」でお開きにするのが惜しい、いや、寂しいのです。
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