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彼女が僕としたセックスと動画の中のセックスは完全に同じだった──ゴールデン街で店番をする風俗嬢から突然のDM

髪色がブルーブラックの女性

待ち合わせ場所は、吉本興業東京本社前にあるファミリーマートにした。風俗の仕事が終わってから来るとのことで、待ち合わせの時間は0時を指定された。そのやりとりから、DMの送り主が待ち合わせ当日に出勤のある風俗嬢ということがわかったから、最近フォローしてくれた風俗嬢のシティヘブンのプロフィールページを片っ端から確認して、関東のお店でその日の夜に出勤のある風俗嬢は誰かを調べてみたけれど、それでも6人までにしか絞ることができず、結局DMを送ってきた人が誰かはわからなかった。

当日。大久保にある自宅からゴールデン街に向かって歩いていると、もう少しで待ち合わせ場所に着くというところで、LINE通知が鳴った。

「髪はロングで巻いてて、色はブルーブラックです。夜なので黒髪に見えるかもしれませんが」

ファミリーマートの前につくと、店内から漏れ出る白光に照らされた、黒いニットのワンピースを着た細身の女性がスマホを覗きながらゴミ箱の前に立っていた。ロングヘアで、巻き髪。髪色は黒に見えるが、確かに青がかっているようにも見えた。

「こんばんは、DMくれた人ですか」

声をかけると、スマホを覗いていた黒目がこちらを向いた。

「あっ、そうです」
「あっ、連絡ありがとうございます。では飲みいきましょうか」
「はいっ」

彼女が常連であるお店に連れていってもらった。カウンターの中に、30代後半くらいの女性が立っていた。空いていたカウンターの一番奥の席に座ると彼女がウーロンハイを頼んだから、僕もウーロンハイを頼んだ。

「ここの店は、私が風俗で働いてること言ってあるから大丈夫だから」

カウンターの中にいる店番の女性に注文をし終わると、彼女は僕のことを横目で見ながらそう言った。その声がカウンターの中にまで届いたのか、店番の女性がグラスにキンミヤの焼酎を注ぎながらこちらに顔を向けてニコッと笑った。それからウーロンハイを店番の女性から受け取って、彼女と乾杯した。

「お名前は、なんて呼べばいいですか」
「古澤っていいます」
「古澤さん。働いてる風俗店の名前って、聞いてもいいですか? 最近僕がフォローした風俗嬢のアカウントって言われても、どのアカウントなのかよくわからなくて」

古澤さんはすんなり教えてくれた。歌舞伎町のヘルス店で働いていること。その店では「ゆら」という源氏名で働いていること。それから、

「ねぇ、聞いて。私の本指名のお客さん、気持ち悪い人ばっかりでさぁ」

と言って、彼女は続けた。

「私、高校のころ吹奏楽部でトランペット吹いてたんですけど、そのことを山本って客に話したら、今日そいつがわざわざトランペット持ってきてさ。トランペットって、ウォーターキーっていう唾を抜くところがあるんですけど、そこから出てくる唾を飲みたいとか言ってきて。私、さっきラブホテルでトランペット吹いてきたんですよ。やばくないですか?」

そう言いながら彼女は口元だけを動かして大きな白い歯を剥き出しにするように笑った。気持ち悪い客への嘲笑か、そんな客とプレイしている自分に対する自虐か、その中間くらいの笑顔で、彼女は続けた。

「ゴールデン街で店番やってても、やたらと口説いてくる人とかいて。店が終わるまでずっと酒も飲まずに残ってる奴とかさ。もうお店閉めるんで、って言うと、閉め作業手伝おうか?とか言ってきて。私、上手く断れないから無視して閉め作業するんだけど、そしたら勝手に掃除とか手伝ってきたりしてさ。閉め作業を手伝えば私とホテルにいけるとでも思ってんのかな? って感じ。こちとらいつも金貰ってセックスしてるわけだから、タダでヤらせるはずないじゃんね」

話をするとき、彼女の黒目は上に動いたり真ん中に戻ったりを繰り返す。

「私ね、付き合ったことがある人は人生で2人だけしかいないの。でも、体の関係を持った人はプライベートだけでも3桁はいるね。本当は駄目なんだけど、ヘルスでもヤっちゃうことあるし。お店でヤったことある人も含めたら、もう経験人数は数えきれないくらいいる。もしかしたら4桁超えてるかも」

小説や映画の話を通して自分の話をする人みたいに、彼女は男の話を通して自分の話をした。彼氏にする男、付き合わないけどセックスはする男、付き合いもしないしセックスもしない男。彼女は男をその3つに区分しているようだった。話すときに動く彼女の黒目を追いながら、僕は彼女にとってどの男に映っているのだろう、と考えていた。DMで僕のことが気になったと言ってきた割には、自分の話ばかりで僕のことに関しては何も聞いてこないから、おそらく彼氏の枠には入らないだろう。付き合わないけどセックスをする男か、付き合いもしないしセックスもしない男の、どちらかだと思った。

1時間ほど飲んだところで、彼女がトイレに立った。それから、30秒くらいですぐに席に戻ってきた。「早いね」と言うと、「私、トイレ早いの」と彼女は言った。僕も尿意があったから「僕もトイレ行きます」と言って、トイレに行って、30秒くらいで席に戻った。僕もトイレは早い方だ。席に戻ると、「そっちもトイレ早いじゃん」と彼女は言った。

「うん、僕もトイレ早いよ」
「そうなんだ。おかわりする?」
「じゃあ、ウーロンハイで」

15分くらい経ったところで、また彼女が席を立った。

「トイレ行ってくる」
「また? 代謝いいんだね」
「うん。私、代謝いいよ」

彼女はまた30秒くらいで帰ってきた。

「早いね」
「うん、私、早いんだって。ウーロンハイおかわりで」
「じゃ、僕もまたトイレ行ってきます」
「そっちも代謝いいじゃん」

その後も2人そろって、お酒を飲んではトイレに行き、お酒を飲んではトイレに行き、を繰り返した。飲むペースがだんだんと速くなって、酒が体を巡ってはすぐに尿として出ていく。彼女と交わす言葉も、体を巡る酒を追いかけるようなものが増えてゆく。気づけば、飲みはじめてから2時間が経っていた。

「そろそろお店出ますか。僕、払いますよ」

お会計は8,000円にも満たないほどだった。財布からお金を出して店番の女性に8,000円を渡そうとすると、彼女が「いい、いいよ」と強く言って、ほとんど強引ともいえるように4,000円を僕の手に渡してきた。

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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