よみタイ

藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」

女ひとり+だだっ広い部屋+虫の声=孤独?

大改造!! サザエさんの家、劇的ビフォーアフター

 ここでしか味わえない居心地のよさと、ここでしか味わえないご馳走に満足して、あとは温泉に入ればパーフェクトという状況でしたが、そこをぐっとこらえてバスと新幹線と在来線を乗り継ぎ、約5時間かけて鹿児島へと向かいます。
 お店から出たとき、既に雨は止んでいて、そこで気が抜けたのかバス乗り場に女将さんがくれた傘を置いてきてしまいました。どうか、突然の雨から誰かを守ることに役立ちますように。女将さん、すみません。
 その夜は鹿児島駅の近くに泊まって、翌日の朝、隼人駅で車を手に入れ、そのまま家へと向かう予定でした。
 買った車はボロボロのワゴンRでしたが、車検でオイル漏れが見つかって、修理のために代車を持ってきてもらうことになっていました。
 免許取りたて、車の知識ゼロ、運動神経ゼロの私が最初に乗る車に出した条件は、「山道でも楽に走れる」「ぶつけても、まあいっかと思える」というもので、古いワゴンRはそれに即して提案してくれたものでした。

 早めに起きて隼人駅に着くと、車屋さんが待ち構えていました。横に停まっている台車はピカピカの新車で、とても気軽にぶつけられそうにありません。これから乗る車より遥かに性能が高く、愛着を持つことはかなわない台車に乗り込み、霧島の自宅へとハンドルを握りしめます。
 白線を踏むと突然鳴るアラーム音に驚かされながら、相変わらずのへなちょこ運転で我が家に到着すると、職人さんたちが待っていました。一度、美しく耕された畑は、数か月の間に名もなき草に埋め尽くされていて、再び荒地に戻ろうとしているようです。
 前回来たとき、リフォームは未完も未完の状態。それから1か月が経ち、果たして。期待に胸を膨らませながら、引き戸をからからと開きます。

 ……なんということでしょう。
 積まれていたケンパス材はすべて床におさまり、だだっ広い部屋の全貌が露わになっていました。ペンキの色も壁紙に合っていて、わざわざ鹿児島までやってきて決めた甲斐があるというもの。仏壇が置かれていたスペースは本棚へ、床の間はレコード棚へ、それぞれ私仕様に生まれ変わっていました。
 匠の技、ありがとおおおおおお! アリーナァァァァァ!!!
 初めてこの家に来たときと同様、部屋いっぱいに光があふれていて、まるで新しい家主を歓迎してくれているようでした。
 バス、洗面所、キッチン……とひとつひとつ説明してもらっては納得し、今度はこの壁の色を変えたいだとか、やっぱり棚板をもう一枚増やしたほうがいいんじゃないかとか、これからの生活にふわふわと夢を馳せます。
 職人さんが帰るのと入れ違いに、大きなトラックがやってきました。運転手は若い金髪の女の子で、器用にハンドルを切って車幅ギリギリのアプローチにぴたりと停車しました。見事。
 以前の巣から運び出された段ボールが、新たな巣に続々と運び込まれていきます。シミュレーションだけはしつこいくらいにしていたので、置き場所の指示に迷うことはありません。
 さっきまで、トランクだけがぽつんと置かれていた部屋に、急に生活が流れ込んできました。それでも、マンションに段ボールがあったときはパツパツだったはずなのに、この部屋に置かれると一角を埋めるだけで、荷物を必死に詰めていたときとは一転、たったこれだけだったのかと感じました。

ビフォーの洗面台
ビフォーの洗面台
アフターの洗面台
アフターの洗面台
ビフォーのリビング
ビフォーのリビング
アフターのリビング、奥のダイニング
アフターのリビング、奥のダイニング
1 2 3 4 5

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

週間ランキング 今読まれているホットな記事