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村井理子「犬と本とごはんがあれば 湖畔の読書時間」
実兄の孤独死をめぐる顚末を描いたロングセラー『兄の終い』のほか、『全員悪人』『ハリー、大きな幸せ』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』など、数多くの注目作を手掛ける翻訳家の村井さんが琵琶湖畔に暮らして十数年。
夫、10代の双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリー君と賑やかな毎日を送っています。
公私ともに古今東西の書籍にふれる村井さんは、日々何を読み、何を思い、どう暮らしているのでしょうか。
人気翻訳家によるエッセイ+読書案内。

実兄よりも兄として慕った男性はいずこへ-誕生日のメールが途絶えた理由

 本当の家族ではないのに、まるで家族のように、私を支えてくれた人たちがいる。今現在、そのうちの誰とも連絡を取ることができない状態になっている。それはひとえに、若かりし頃の私が、感謝することを知らない未熟な人間であったということなのだが、その事実がこの年齢になってかなり重く、時折考えてはつらい気持ちになる。

 十九歳で故郷から京都に移り住んだ。誰一人として知り合いのいない土地に突然引っ越し、ワンルームマンションから大学に通うというのは、今から考えれば、あまりにも無理があった。自分の子どもには同じことをしてほしくないと強く思うような生活だ。京都に移り住む三カ月前には父が亡くなり、その衝撃を引きずったままの私には、一人暮らしの孤独がなにより応えた。母と兄は私を京都まで送り届けると、一時間も京都に滞在せずに故郷に戻っていった。あの時の絶望感をどう説明したらいいのか。

 そんな私にも、数人だけど友人ができた。後に大親友となる陽子ちゃんは、めちゃくちゃ破天荒な天才型の人物で、数カ国語を操った。とにかく個性的で一緒にいて楽しい女性だった。私が彼女を親友だと誰かに紹介すると、決まって彼女は「誰が親友やねん」と照れながら突っ込んだ。そんな楽しい彼女と一緒にアルバイトを始めたのが、二十歳の頃。大学に通いはじめて一年も経たないというのに、私はすでに休学していた。客と従業員の半分が外国人で、残りが私たちのような学生(休学中含む)というバーだ。そこに足繁く通っていたのが、近くのホテルのフレンチで働く若い料理人たちだった。

 若いと言っても、私よりはたぶん十歳ほど年上の人たちだったと思う。女性に大いにモテる彼らは、常に美しい人々を連れてやってきた。私たち学生は、貧乏なうえに彼女らのような華やかさは一切持ち合わせていなかったけれど、陽子ちゃんの破天荒さと、私の陰気な雰囲気が彼らに気に入られたようだった。まるで本物の兄のように、私たちは彼らを慕うようになった。彼らも私と陽子ちゃんに腹一杯食べさせ、飲ませ、学校に通い続けろと叱咤激励してくれた。

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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。

ツイッター:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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