よみタイ

勝ち組にも負け組にもなりたくないだけなのに

本当の本当の本当に東京を離れても大丈夫?

 しかし、先述した通り、私の予想はほぼ外れてきたので、もはや自分を信用できずにいます。
 勢いで移住を決めた結果、仕事がまるでなくなるかもしれない。
 私が移住したのち、東京がどんどん面白い都市に変化するかもしれない。
 移住先の人間関係が思うように築けないかもしれない。
 移住に向けて、背中をぐいと押してくれる、信頼できる人が描いた未来予想図が欲しくてたまりません。

 友人に移住を考え始めていると話すと、反応は大概、
「綾ならどこでも生きていけるよ」
 というポジティブなものでしたが、みんなの感覚的なものでしかない“綾なら”が何を指しているかもわからないし、言うても所詮は他人事。
 一方で、「綾には絶対に無理」という意見もあって、むしろそちらの方が、信憑性が高いように思えます。お互いまだ駆け出しの頃から知っているカメラマンの友人は、散々都会の利便性と、自由と、個人主義に浸かってきた私が、そんな場所で生きられるはずがないと、早くも烙印を押しました。

 住んでいるマンションのほど近くにあった花屋がなくなり、長く空き店舗だった場所に新しくカフェができると貼り紙がしてありました、それを楽しみにする自分がいます。
 東京は生まれ故郷で、刺激もある。友達もいる。本当にここを離れてもいいのだろうか。

 とはいえ、私は東京の変化も感じていました。
 私が二十歳だった頃を振り返ると、街にはそれぞれ異なる個性があったように感じます。渋谷はカルチャーに飢えた若者が集っていたし、原宿はファッションがアイデンティティにありました。新宿は駅に降り立つだけでヒリヒリとした空気に包まれていたし、下北沢は古着と音楽と酒が主成分。その街その街で歩くときの気分が違ったし、その街に足を踏み入れること自体が楽しみでした。

 でも、いつしかどこも駅直結のビルが建ち並ぶようになって、その街の個性となった小さなお店や個人店が少しずつ少しずつ減ってきているように見えます。
 とても便利で、とても綺麗で、とてもスマート。昔はよかったなんて言いたくないし、言う気もないけれど、でも、私にはそれがつまらないのです。
 多様性とは、それぞれが個性を発揮して、そのひとつひとつの個性を尊重することだと思いますが、この状況は多様性に逆行して、どんどん画一化しているように見えます。そしてこれは、ゆるキャラ現象と通じるものを感じずにはいれません。
 
 海外に長く住んでいる友人いわく、「本来データとは目的に至る手段のひとつでしかないのに、日本人はマーケティングを信棒し過ぎている。データ自体を目的だと勘違いして、もともとの価値である目に見えない面白さや楽しさを削っているように見える」とのこと。思い当たる節があちこちにあります。

 面白さや楽しさや刺激といった東京の魅力がなくなっていくなら、何を迷うことがある、とっとと動いたほうがいいと、頭の中で警告音は鳴り響きます。
 私が居心地よくいられる東京は、将来にあるのだろうか。
 そう思ったとき、以前、“これからの価値観”をテーマに一度だけインタビューした林厚見さんの言葉が蘇りました。
「東京には、いずれスラム街ができるかもしれない」
 これは、紙面には掲載しなかった言葉です。
 可能性ある未来について語ってもらう企画だったので、その時はそのコメントについて掘り下げませんでしたが、今思えば、もっと突っ込んで聞いておけばよかったと後悔しました。林さんの未来予想図が見てみたい。
 過去の名刺を探って、直接アポイントを取ってみることにしました。

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藤原綾

ふじわら・あや
1978年東京生まれ。編集者・ライター。
早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社を経て宝島社に転職。ファッション誌の編集から2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙と幅広い分野で編集・執筆活動を行う。東京出身。編集者・ライター。「FM きりしま」パーソナリティ、第一工科大学非常勤講師として霧島でも活動中。

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ツイッター @ayafujiwara6868
プロフィール写真©chihiro.

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