よみタイ

勝ち組にも負け組にもなりたくないだけなのに

食いたくも食われたくもない人間の処世術

 忙しくも様々な経験をさせてもらい、陽気に過ごした出版社時代を経て、生活サイクル含めフリーすぎるフリーランスになって、はたから見たらどう見えるかわからないけれど、私なりに満タンに充実した日々を送ってきました。
 なのに今さら、今度はフリーランスの編集者、ライターとして、弱肉強食に逆戻り? あるいは社会全体が弱肉強食に入っていくのかも?
 あんな思いをするのはもう懲り懲りです。茨の道は避けるに限る。ストレスこそが、すべての病の源なり。
 熾烈なお受験戦争を通り抜けたものの、大企業の出世争いからは、ほぼ入口にすら立たずにいち抜けを表明した私は、今さらそんな世界に、足を突っ込むどころか足の指先すら浸したくありません。狡兎三窟、逃げることも戦略です。

 じゃあ具体的に競争ではなく助け合いの文化に身をおくと考えると、やっぱり答えは地域社会に戻ってきます。
 例えば、多少高くても、壊れたときは修理に来てくれる地元の電気屋さんで買う。その電気屋さんは地元の八百屋さんで買って、その八百屋さんは地元の本屋さんで買って、その本屋さんがまた地元の電気屋さんで買うといった、昔ながらの流れで循環しているような、小規模な経済が回っている地域もまだ残っているはずです。
 欲まみれの価格設定ならさすがに手は出しませんが、ネットで血眼になって一期一会の安い店を探すより、基本的には「その後の面倒も見てくれる〇〇さんのところで買う」ことのほうが、今の私にとっては健全な気がしてきました。

「先日、急に脚に痛みが走って曲がらなくなったとき、この程度で呼べる近所の友人がいなくて、結局親に来てもらった」と話す43歳の男友達。
「学区が違うのでママ友ができない。リモートワークが進んで、日中話す人がいない」と嘆く同級生。
「親が遠くに住んでいて、旦那も子育てに非協力的。自分も仕事があるのに」と愚痴る同業の先輩。
 こんな悩みも、ご近所さんの機能が働いていれば解決できるのではないでしょうか。
 私がそれぞれの隣に住んでいれば、病院まで連れていくし、一緒に世間話をするし、たまには子どもを預かるし。

 そんな場所が見つかるかどうかはいざ知らず、東京の仕事を受けて、その地域で消費することで、収入が多少減ってもその循環の一部になれるような気がしてきました。使う分だけ、それが目に見えない形だとしても、ちゃんと地域社会の繋がりという形で返ってくればいいわけです。
 多少弱くなっても、食われない場所を探さねば。

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藤原綾

ふじわら・あや
1978年東京生まれ。編集者・ライター。
早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社を経て宝島社に転職。ファッション誌の編集から2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙と幅広い分野で編集・執筆活動を行う。
インスタグラム @id_aya 
ツイッター @ayafujiwara6868
プロフィール写真©chihiro.

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