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藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」

死んだ私を見つけてくれるのは誰なのか

父が死に、そして、誰もいなくなった

 今、私がこの目黒のマンションで突然死したとき、誰が最初に気づくのかなあと、ふと思いました。あの感じだと、隣人が第一発見者だとしたら、私はもう原型を留めていなさそうです。今なら、友達、仕事関係者、親戚あたりでしょうか。
 でも、もしこれが75歳だったら?
 今でさえ年に一度会うか会わないかの甥っ子や姪っ子と頻繁に連絡を取っているとも思えないし、お互い高齢者になった友人がすぐ気づくのでしょうか。
 ふと、窓の外に目を向けると、公園でおじいちゃん達が5~6人集まって将棋をしている姿が見えました。彼らはほぼ毎日、同じ場所で将棋をさしています。毎日あそこに集まっていて、誰かが来なくなったらおかしいと気づくでしょう。

 SNSの発達によって、長らく会っていない友人の動向もわかるようになったし、連絡も気軽に取れるようになりました。つい先日も、ここ数年会っていなかったイラストレーターさんとクラブハウスで再会して大盛り上がり。どこで暮らしていても繋がることができる時代になり、実際に顔と顔を合わせなくても、なんだか一緒にいるような気がします。
 でも、果たしてそれで人生後半戦は大丈夫なのでしょうか。将棋をさすおじいさんたちが目に浮かびます。
 私が人生後半戦を生き抜くにあたって、まず必要なのは、死んだことに気づいてくれる人の存在のような気がしてきました。
 死んだら終わり。そりゃそうなんだけど、死んだことをすぐに気づいてくれる人がいない人生ってどーよ。

 もやもやと今後の人生について考えていたある日、突然自宅で父が亡くなりました。
 最後に実家に帰ったのは、半年以上前。家の電話とテレビが同時に繋がらなくなったと父から連絡が入り、兄とふたりで父の様子を見がてら、配線を確認しにいったときのことです。
 帰り際、私たちに向かって「ありがとう」と手を振ったのが最後に見た姿でした。「ありがとう」も「ごめんなさい」も言えなかった父が、素直にお礼を言ったのを見て、兄と「やっと丸くなってきたね」と話したことを覚えています。
 その後、コロナのことがあるから家には帰ってこなくていいと言われ、しばらく実家から遠ざかっていましたが、既に誰も住んでいない祖母の家の整理も途中になっていたので、久しぶりに兄と父の顔を見にいくことにしました。たまたま、その日の朝、父は自宅で亡くなっていて、私たちは運よく同日中に発見することができたのでした。

 私が高校生のとき、既に母は亡くなっていて、兄も私も既に独立しているので、実家は空っぽになりました。家族4人で住んでいた実家は、ひとり消え、ふたり消え、3人消え、いよいよ誰もいなくなりました。自分もそういう歳になったんだという実感も込み上げました。両親を見送ったということは、次は私たちの番です。
 コロナ禍ということもあり、ささやかに家族葬を行ってから1週間。これもたまたま実家で必要な書類を探していたとき、もう誰も住んでいない実家の電話が鳴りました。
 久しぶりに固定電話の受話器を取ると、近所に住んでいる両親の同級生で、私も小さいころよく面倒をみてもらっていたおばさんでした。父が亡くなったことを風の噂で聞いて、もう誰もいないとは知りながらも電話をかけてしまったと。おばさんはたくさんの昔話をしながら、私たちのことを心配していたと何度も繰り返しました。
 斜向かいのお宅からは最近の父の様子を聞くことができて、町内会の方は誰もいなくなった実家を防犯の観点からたまに見にきてくれるのでした。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

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