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ダルビッシュ有投手も愛用。自宅で簡単にできる「セルフお灸」に挑戦してみた

 調子づいた私は、残りのお灸をすべて顔に装着し、映画『ヘルレイザー』に出てくるピンヘッドみたいな風貌になってやろうと思い立つも、お灸って一度に大量処方するのはとても危険らしい。ここは涙を飲んで諦めることにした。

 使い終わったお灸は、水をためたお皿に浸してお役御免となる。鶴の画の入った小皿の上にせんねん灸の燃え殻が置いてある様子がなんとも風流で、すかさずスマホで写真をパチリ。SNSにこういう小洒落た写真を載せたらどれだけ「いいね」がつくのか試してみようかなと、しょうもないことを思わず考えてしまう。そういう思考を抑えるお灸が私には一番必要かもしれない。

お皿にお灸。
お皿にお灸。

 それからというもの、私の生活にお灸は欠かせないものになった。寝る前のちょっとした空き時間に、部屋の電気を全部消し、イエモンの『JAM』を口ずさみながら、暗い部屋でひとりお灸に火をともすときの高揚感といったらない。
 思い返せば、子供の頃にも、親の目を盗んでは、こうやって一人でライターに火をともして日がな遊んでいたっけか。結局私は子供の頃から何も変わっていないのだ。そして変わらず私の傍にいてくれる「火」の安心感よ。今夜もありがとう。

 そんなわけで、かれこれ二週間ほどお灸を続けているのだが、慢性的な肩こりが多少マシになってきたような気がする。ツボというツボを片っ端から試している最中なので、これぞというツボをいつか見つけられるんじゃないかと毎日ワクワクしている。
 ただ「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という言葉の通り、お灸を一気に焚き過ぎてしまい、我が家の火災報知器を鳴らしてしまうという失態を先日に犯し、同棲中の恋人からこの世のものとは思えないほどに強烈なお灸を据えられてしまったわけである。
 せんねん灸と、愛する人からのキツイお灸、この二つさえあれば、しばらくは健康で楽しい生活を送れそうな予感がしている。痛いことや怖いことも健康には多少は必要なのだ。

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

記事が続きます

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は12月10日(日)配信予定です。お楽しみに!

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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