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おじさん、縄跳びを買う~嗚呼、我が青春の二重跳びをもう一度~

爪切男、四十にして惑う?
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。

前回は乾燥シーズンの到来。初めて本気でリップクリームに挑戦してみたエピソードでした。
今回は、運動の秋がやってきた!? 健康にはおそらくもっとも重要な「運動」をようやく始めることになったのですが……。
(イラスト/山田参助)

第32回 結論:できないことが増えてからの方が人生は楽しい

 ついに山が動くときがきた。
 いささか大袈裟な物言いだが、それほど言い過ぎでもない。のほほんと悠々自適に美容と健康を楽しんできた私の生活に、ドラスティックな変化が起きようとしている。

 いよいよ「運動」を始めてみようと思うのだ。

 化粧水、フェイスマスク、紫外線対策、眉毛サロン、乱れ切った食生活の改善などにこれまで尽力してきたが、言うなればそれらはあくまで「静」の行為。真の健康を手に入れるためには「動」の行為も必要となる。そう、私には今「運動」が必要なのだ。

 目下のところ、運動らしい運動は何もやっていない。百歩譲って運動にカテゴライズしてもいいこととしては、日々の散歩とレンタルサイクルぐらいか。
 たまの休日、自転車にまたがり、ちょっと遠くの町までレッツサイクリング。ただし、自転車は電動自転車なので、たいした運動にはなっていない。よく知らない街のよく知らない飲食店というものは、やけに食い気をそそるので、ついついご飯を食べ過ぎては体重も一気に増加、という本末転倒ぶりである。

 およそ秋とは思えぬ気温が続く毎日だが、それでも夏よりは過ごしやすいのどかな日和となってきた。久方ぶりに「運動」を始めるには、この機を逃す手はない。

 運動と言われてまず思い浮かべたのは「ランニング」なのだが、初期費用がかかることから見送りとする。ランニングウェアに専用シューズに肌着類、とにかく形から入りたがる私は、これらを揃えるのにお金がかかって仕方がないのだ。
 というのは大義名分であり、本当の理由は別にある。
 一時期に比べれば見れるようにはなってきたかもしれないが、いまだに私は適正体重を20キロ以上オーバーする立派な太っちょさんなのだ。ダラダラと汗を流し、ゼイゼイと息を切らせて走る中年男性の醜態を晒すのは若干気が滅入る。自業自得だろ、甘っちょろいこと言ってんじゃねえぞと言われてしまったらそれまでの話なのだが。

 だが、そんな私のわがままに応えてくれる運動がまだ残されていた。
 時間も費用もかからず、なおかつ場所も取らないリーズナブルな運動。それは……「縄跳び」だ。
 実は縄跳びにはちょっとした自信がある。小学生の頃、毎年秋に開催されていた校内縄跳び大会で、私は常に上位の成績をおさめるほどの腕前だった。得意としていた二重跳びにいたっては、小学校高学年のときには200回以上は楽に跳んでいた記憶がある。
 昔取った杵柄ではないけれど、縄跳びなら多少はやれる自信がある。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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