2023.10.22
ニベアのリップクリームよりカバヤのお菓子が好き。そんなおじさんがリップケアに目覚めたら?
ポッコリ飛び出た自分の腹を触ってみる。音にするならタプンタプンといったところか。ただし唇はプリンプリン、お肌はスベスベ、爪はピッカピカ。
美容と健康に執心するようになってからというもの、自分の体から発せられる音が徐々に耳障りの良いものに変わっていくのを日々感じる。
ちょっとしたメイク感覚で、スモーキーローズのカラーリップも塗ってみる。真っ赤な口紅ほど鮮やかではないが、ほんのりピンク色に染まった唇を眺めていると、「おじさんが紅なんかさしてごめんなさい」という申し訳なさと共に確かな胸の高鳴り、万能感を感じる。
上京した当初、寂しさに負けそうになったときはいつも、暗い部屋でひとり、大好きなタイガーマスクの覆面をかぶっては勇気を奮い立たせていた記憶が蘇る。そう、あのときに似た高揚感が私の体を駆け巡っている。
「タイトなジーンズにねじ込むわたしという戦うボディ」と歌っていたのが誰だったか忘れたけれど、今ならわかるぜその気持ち。
自分の好きなメイクをして、自分の好きな服を着るだけで、人はこんなにも強くなれる。なんだってできる。どこにだって行ける。
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ただ思わぬ弊害にも悩まされている。リップケアを始めてからというもの、誰かとキスがしたくてどうしようもない。同棲中のパートナーだけでは満足できない。街で素敵な唇をした人を見かけるたび、その美しさに見とれてしまい、その人とキスがしたくてたまらなくなる。
ああ、私はすっかり唇の魔力に魅入られてしまったようだ。老若男女人間動物問わず誰彼かまわずキスがしたい。私のプルンプルンの唇をどなたか味わってはいただけないでしょうか? 何卒よろしくお願い致します。
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当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は11月12日(日)配信予定です。お楽しみに!