2023.9.24
「爪切男」という名を名乗る者として、本気でネイルケアをやってみた
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。
前回は、なんと約20年ぶりにプロによる散髪を体験した話でした。
今回は、まさに灯台下暗し? 自らのペンネームにもかかわらず、関心がなかった「爪」ケアについて。
(イラスト/山田参助)
第29回 ただ爪を切るのではなく、爪と共に生きてみよう
「爪切男(つめきりお)」という素っ頓狂な名前で作家業を営み始めてから、およそ10年が経とうとする今、私はある事実に気づいてしまった。
「爪切男という名前の割に私の爪は汚い」
爪切りメーカーとスポンサー契約を結んでいるわけでもなし、自分の爪がどれだけ汚かろうとも、私の作家人生には何の影響もない。「我こそが爪切男だ!」という訳の分からぬ自尊心を持ち合わせているわけでもなければ、なんなら爪を切っている最中でさえ、自分が爪切男だということをすっかり忘れているぐらいだ。
仕事の打ち合わせで「爪を切り過ぎて深爪していませんか?(笑)」とか「やっぱり爪には何かこだわりを持っているんですよね?」という具合に〝爪トーク〟を強要されることも数知れず。もはやセクハラならぬ立派な〝爪ハラ〟である。
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このように、「爪切男」と名乗っておきながら、その名前にも、爪への執着心も全くなかった私。だが、美容に目覚めた今の私にとって〝爪切男なのに爪が汚い〟というのは、とても恥ずかしいことのような気もするわけなのだ。
良い機会なので、ペンネームの由来についても話そうと思う。今から20年以上も前の話だ。当時大学生だった私は、出会い系サイトで知り合った人生初の彼女との恋にどっぷりと溺れていた。デートやセックスもいいが、それよりも楽しかったのは、毎晩夜明け過ぎまで続く彼女との長電話だった。どうでもいい話題で連日朝まで笑い合える人と自分は付き合っている。その愛の奇跡を認識できる至福のひとときであった。
だが、幸せと引き換えに毎月の携帯電話料金は膨らみ続け、ついにその金額は5万円を超えるまでに。「学割」や「かけ放題」といったお得なプランが全くない時代の話である。嗚呼、日本育英会から毎月支給される奨学金が彼女との電話代に消えていく。
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