よみタイ

おじさんの健康のバロメーター、それはドラッグストアのポイントカードなのです

 私は何を言っているんだ。

 ドラッグストアに対して腹に一物抱えて生きてきた私だが、同じような理由で、気軽に足を踏み入れられない場所というのは他にもあった。
 無印良品には極力近づないように生きてきたつもりだし、 ローソンストア100は平気でもナチュラルローソンに入店するときは胸の鼓動が早くなる。インテリアショップに関しては、IKEAは絶対にダメだが、ニトリはギリギリOK、大塚家具は我が物顔で歩いてOKという自分の中でのルールがある。銀座線や東急東横線ではすみっこの方で大人しく座っているが、東西線や西武新宿線は私のために作られた電車だとすら思っている。
 人の目を気にし過ぎる私ゆえ、外で仕事なんてできた試しがない。小洒落た喫茶店でノーパソを開きカタカタと文章を打ちこむ姿に憧れたこともある。だが実際は、隣に可愛い女の子でも座ってきた日には、この子はこんな醜い私の隣でもいいと思ってくれたんだな。と恋の予感を感じてしまう困った男なんである。

 と、これほどまでに面倒臭いおっさんだった私が、ふとしたきっかけで美容と健康に目覚めてからというもの、まるで別人になったかのように生まれ変わってしまった。
 変わることのできない自分を「無骨」や「アウトロー」といった都合のいい言葉で美化することをやめ、少しでも変わっていける自分を、自分で愛してあげることに決めた。
 美しくはないけれど少しはマシにはなったであろう容姿に自信を持ち、積極的に外に出るようになった。至近距離で自分の顔を見られる重圧に耐えきれなかったメガネ屋にも行けるようになったし、真夜中にしか生きれないと思っていた私が、昼の街をブラブラと散歩するようになった。

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 そして、あれだけ嫌悪していたドラッグストアへの興味が尋常じゃないレベルで高まっていくのを感じていた。素直に認めよう。私はずっとずっと前からドラッグストアでの買い物をもっと楽しんでみたいと思っていた。
 壁一面に陳列されたシャンプー、リンス、入浴剤、柔軟剤、洗顔料などなど。CMで見かけた話題の新製品から、普通の店ではお目にかかれないレアなものもドラッグストアには何でも揃っている。
 この感動はアレだ。小学校の頃に初めて学校の図書室に足を踏み入れたとき、この世にはこんなにも沢山の本があるんだと感動したアレと同じだ。そしてこの悲しみはアレだ。ブックオフのCDコーナーにて、おびただしい量のCDを見て、ああそうか、俺はどんなに音楽が好きでも、全部の音楽を聴けずに死んでいくんだなと悲しみに暮れたアレと同じだ。ドラッグストアには何でも揃っている。人生の感動と悲しみさえ揃っている。

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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