よみタイ

日焼け止め、たくさん塗って、すこ~し泣いて。おじさん、日焼け止めはじめました

 と、最初は感動しているものの、生粋の面倒臭がりである私のことだ、日焼け止めを塗らない日もあるだろう。そこで簡単な紫外線対策として日傘も購入することにした。日傘というと、白いドレスを身にまとった美しい貴婦人が差しているイメージが強いのだが、私に似合うものはあるだろうか。
 おそるおそるデパートに足を運んでみると、あるわあるわ、さまざまな種類の日傘が売り場に並んでいる。折り畳み傘もあれば、綺麗な模様をしたファッショナブルなもの、時代劇の侍が差しているような番傘タイプのものまである。
 最初から奇抜なものを買うのはアレだなと思い、スタンダードなカーキ色の折り畳み傘を購入。やっぱり家まで我慢できず、日傘を差して家まで帰ることに。
 しかし、人生とは不思議なものだ。「雨は冷たいけど 濡れていたいの」のスピリッツで、少しぐらい雨に濡れた方が気持ち良いじゃないかと、どれだけ雨が降っていても傘を差さない私。そんな私が目に見えない紫外線を防ぐために、こうして日傘を差しているのだから。

 自宅近くの交差点で信号待ちをしていると、日傘を差す私の横に、学校帰りの子供たちが並んできた。以前住んでいた街では、だらしがない恰好をしていた私を見て「太っちょゴブリン!」と揶揄していた悪ガキたちがいたっけな。あいつらは元気にやっているだろうか。太っちょゴブリンは違う街で日傘を差して生きてます。
 日傘を差すおじさんが珍しいのか、こちらにチラチラと目をやる子供たち。するとそのうちの一人が私に対してこう言った。

「おじさん、トトロみたいに傘差してやんの! トトロだ。トトロおじさんだ!」

 さあ、いつもと違う夏が始まる。日本の夏が始まる。太っちょゴブリンからトトロに生まれ変わったおじさんの夏が始まろうとしている。

 (イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は6月11日(日)配信予定です。お楽しみに!

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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