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スランプに陥った美容大好きおじさん、ムダ毛をごっそり抜いて立ち上がれ!

爪切男、四十にして惑う?
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。

前回は角質ケアで足元がツルツルになった著者。
今回は、さらに全身をツルツルにすることに挑むのですが、それには理由があって……。

(イラスト/山田参助)

第19回 迷わず抜けよ、抜けばわかるさ、脱毛だ~!

 とかく体毛とは縁のない人生を歩んできた。「縁がない」というより「興味がない」もしくは「現実から目を背けてきた」と言った方が正しい。

 曾祖父、祖父、父と、我が家の男は代々若ハゲに悩まされてきた。四十代になる頃にはみな綺麗な禿げ頭、父にいたっては、二十代後半にしてつんつるてんという具合である。
 息子の将来を案じた父は、私がまだ子供の頃から「若いうちに坊主頭にしておいた方がいいぞ」と呪文のように言っていた。早くから周囲の目を坊主頭に慣れさせておけば、多少髪が薄くなっても、それほど目立ちはしないだろうという目論見である。
 高校生ぐらいでハゲの兆しをにわかに感じ始めた私は、二十代にして残りの人生を坊主頭で生きていくことを決めた。父の忠告を素直に受け入れたというよりは、敬愛してやまない松本人志が同時期に坊主頭になっていたことが決断の決め手となった。

 かくかくしかじか、もう二十年以上も坊主頭を続けているわけだが、快適この上ない。
 週に一度、バリカンを使って自分でちゃちゃっと手入れをするだけで散髪は事足りる。時間にして三十分もかからない。美容院や整髪料にかかる費用、毎朝のスタイリングに費やす時間とは一切無縁の生活。頭頂部と前頭部の毛量が若干寂しくはなってきたが、親父の見立て通り、周囲の人はそんなことはさほど気にしていないご様子。薄毛が進行した場合は大人しくスキンヘッドにすればいいだけの話なので、何の不安もない。
 自室の床に新聞紙を広げ、全裸になってその上にあぐらをかく。文字通り「裸の自分」と向き合う瞑想にも近い静かなひととき。髪の毛と共に己の欲や雑念も一緒に剃り落としているかのようなスピリチュアルな儀式。週に一度の散髪は、私にとって欠かすことのできないリラクシングタイムになっている。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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