よみタイ

サイクリングでわかった人生における大切なこと、それは「結果」ではなく「継続」だ

 盗み食いを積み重ねた結果、体重は再び100㎏台へと突入。
 私の罪の重さ、それすなわち約20㎏。
 自分が犯してきた罪がきちんと数値化して現れるのはちょっと面白い。

「いい息抜きになればと思って気付かないようにしてあげてたけど……いつまでコソコソ買い食いするつもり?」
「え? え? もしかして……バレてた?」
「口にごはん粒ついてるわ、帰ってきたらやけにニヤニヤしてるわ……気付かずにいる方が無理だよね」

 ミシュランマンのようにぷっくりと太った私の裸体を一瞥して、恋人は大層おかんむりのご様子。
 すべて気づいた上で泳がせてくれていたのか。あなたの器のデカさにはかないません。海より深く反省します。

 と、反省はしても性根は治らないのが私という人間である。四十年も生きてくればそれぐらいはわかっている。間違いなく私は、背徳グルメに再び手を染める。それを見越した上で、何か良い手立てはないものか。
 そうだ、ダイエットと気晴らしの両方を兼ねて軽い運動でもはじめてみよう。かといってランニングのような汗をかく運動は続いた試しがない。そこで私が目をつけたのが、最近都市圏で見かけることが多くなってきた「シェアサイクル」だった。

「シェアサイクル」とは、読んで字のごとく、他の人と自転車を共有するサービスのことである。「サイクルスポット」と呼ばれる無人の駐輪場に置かれた自転車を、24時間いつでも好きなときに借りることができ、使った分だけの料金を払えばいい。しかも借りた場所と違う場所に返却しても大丈夫。もはや乗り捨てに近い。いわば、A町のTSUTAYAで借りたDVDをB町のTSUTAYAに返してもOKということだ。何と便利なことだろう。

 利用方法はスマホの専用アプリをダウンロードして簡単な会員登録を済ませるのみ。これだけで近隣にあるサイクルスポットの検索と、そこに何台の自転車があるかの確認、自転車の当日予約が可能となる。電動自転車の場合はバッテリーの残量まで確認できるという優れものだ。
 肝心の料金の方は30分で150円ぐらいというお手軽価格なので、ちょっとした用事のときに使うにはかなり重宝するのではないか。

 ロードレーサーやクロスバイクのようなガチなやつには尻込みをしてしまう。そんな私にはシェアサイクルぐらいが丁度いい。今や自転車を持つのも何かと面倒だ。メンテナンスや駐輪場代にといろいろお金がかかるし、何より駐車監視員の緑色のおじさんとは一生関わり合いになりたくない。

 天気もいいしどこかに出かけたいな、でも今日は知ってる人には誰にも会いたくないんだよな。そんなわがままな衝動に駆られたとき、私は真っ赤な電動自転車にまたがり街へと繰り出す。
 前へ前へと進む力をアシストしてくれる電動自転車、坂道もスイスイ登るし快適この上ない。
 不思議だ。ペダルをこいでいる間だけは、先々の不安や恋人との未来、老後の心配などどうでもよくなってくる。現実は何も好転していないのに、何の努力もしていないのに、この先すべてがうまくいきそうな予感がして仕方がない。そういえば昔、六年間付き合った彼女にフラれたときも、毎日あてもなく自転車に乗っていたっけか。結局私はいつだって自転車に乗っている。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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