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白湯を飲むことで気づいた「何もしないでいる時間」の大切さ

爪切男、四十にして惑う?
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。

前回は幸せな生活の中、体重がリバウンドし、これではいかんと、深夜のシェアサイクルにはハマった著者。今回は、深夜ではなく朝活。それも白湯を楽しむ朝活で感じたエピソードです。

(イラスト/山田参助)

第17回 村上春樹に毒づきながら白湯を飲む、それが私の「朝活」です

「よし、村上春樹の真似っこをしてみよう」

 もう何度目の挫折かは覚えちゃいない。執筆活動にまたもや行き詰った私は、世にも畏れ多い打開策を思い付く。
 売れない作家の私では、村上春樹の文章を模倣することすら難しいだろうが、その執筆スタイルぐらいは真似ることができるやもしれない。

 毎朝四時に起床し、四、五時間ほどかけて原稿用紙十枚分を執筆。どれだけ調子が悪くても十枚、どんなに筆が乗ろうとも十枚しか書かないのが村上春樹のやり口らしい。
 深夜にならないと集中力を発揮できない完全夜型人間の私にとっては、未知の領域の話だ。でもだからこそ試してみる価値がある。科学的な観点からも、人間の集中力がもっとも高まる時間帯は早朝だと証明されているらしい。

 俗に作家という人種は、生活サイクルは各々違えども、みな自分だけのルーティーンを持っている。私も作家の端くれとして、そろそろ自分のスタイルを確立しなければ。強い決意を胸に、私はスマホのアラームを朝四時にセットし、布団へと滑り込むのであった。

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 半月ほどが経ち、ようやくわかったことがある。

「私は村上春樹にはなれない」

 朝から原稿とにらめっこを続けても、どうしても書けない、筆が乗らない、一文字も書けないなんて日もざらにある。これはもう性分として諦めるしかないのだろう。もとはといえば春樹も春樹だ。調子が良くても原稿用紙十枚分しか書かないなんて、ちょっと格好つけすぎだろう、いちいち癪に障る野郎だな。
 ただ、早起きをすること自体は非常に気分が良い。体調も快調この上ないし、何かと乱れがちな生活リズムもバッチリ整った。まさにいいこと尽くめ。その点に関しては「サンキュー春樹」である。

 という経緯で、すっかり朝型人間になってしまった私は、「朝活」なるものを始めてみることにする。読んで字の如く、朝に活動をするから「朝活」である。仕事や学校に行く前の空き時間を、運動、勉強、趣味といった活動に充てることで、日々の生活をよりいっそう充実させようというのが「朝活」の目的である。
 ランニング、散歩、朝から一人カラオケ、近所の喫茶店にモーニングを食べに行くなど、自分なりの「朝活」をアレコレ試してみた結果、私が選んだのは「白湯さゆ」であった。
 ルイボスティーを愛飲するようになってからというもの、マテ茶にハス茶にコーン茶と、あらゆる飲み物に興味津々な私。以前から気になっていた白湯に手を出すのには、絶好の機会というわけだ。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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