2023.1.8
自分のにおいを知る旅に出た男が見つけた、素敵な体臭を手に入れるたった一つの冴えたやり方
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。
前回は30キロほどやせた変化と、新しい彼女ができた素敵な話でした。
2023年初回となる今回は、臭いの話。それとなく認識していた自分の体臭について、新しい彼女などに聞いてみたら……。
(イラスト/山田参助)
第12回 「あなたの体臭って……樹海のにおいがするの」
以前働いていたバイト先の店長がいわゆる〝体臭のきつい人〟だった。とくに夏場なんかはひどいもんで、業務に支障をきたすレベルの悩ましい刺激臭を辺り一面にまき散らしていた。
中年男性特有の加齢臭と汗のにおいが程よく混じり合い、柑橘系の爽やかなスメルを時たま匂わせることから、バイト内では「ママレード・ボーイ」というあだ名で呼ばれていた店長。
何かとお世話になっている店長が陰でバカにされているのは見るに忍びない。言葉ではなく態度でそれとなく店長に伝えてあげよう。ロッカールームで一緒になったときに、制汗スプレーを必要以上にふりかける様子を見せつけるなど、私は店長への無言のアピールを続けた。
その結果、控え室の壁に「制汗剤の使い過ぎには気をつけましょう by 店長」という注意書きが貼られることになった。まったく困ったママレード・ボーイである。
時は流れ、あの頃の店長と同じぐらいの年齢にさしかかった今、率直に気になる。私の体臭っていかがなもんだろうか。
そこで、付き合い始めたばかりの恋人を頼ることにした。まだ情が湧ききっていない今ならば、忌憚なき意見を聞けるはず。と言いつつも、一般的な中年男性よりかは幾分マシなはず。まあ、男はみんな、そんな根拠のない自信を持っているんじゃないかと思うが。
「〝樹海のにおい〟がするよね。いや、樹海に行ったことはないんだけどさ。そうとしか言えない。ヌメッとしてどんよりしてんの。ギュッて抱き締めるとフワっと体から胞子が飛んでる感じがするよね」
予想もしていなかった言葉に、私はしばし絶句する。
いや、思い当たる節はあった。
雑誌の取材で私の部屋を初めて訪れた担当編集から、その取材後に、チップ状に砕いた青森ひばが大量に送られてきたことがあった。「木のにおいがする入浴剤が大好きなんですよ」と言っていた私へのプレゼントだとばかり思っていたが、どうやら「部屋が臭いので何とかしたほうがいいですよ」というメッセージが込められていたようだ。
記事が続きます