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東京都議会議員選挙でまず伝えるべき結果は「投票に行った有権者、過半数に届かず」だ!

愛知県民のために行動していた現職候補がいた!

「立憲異端児」の文字を掲げた宮瀬英治候補。(撮影/畠山理仁)
「立憲異端児」の文字を掲げた宮瀬英治候補。(撮影/畠山理仁)

 私は無所属の候補者の取材しかしていないと思われているが、実際には政党の公認候補者も数多く取材している。その中には、ユニークな活動をしている人もいる。有権者と同じ感覚を持っている人もいる。「政党公認」だからと十把一絡げにすることはできない。

 そんな候補者の一人が、板橋区選挙区から立候補した現職・宮瀬英治候補だった。

 選挙期間中の7月1日、私が都議選に立候補した人たちのTwiterを幅広くチェックしていると、ひときわ目を引くツイートを見つけた。

「71回目の地下鉄成増駅での始発から終電まで駅前相談会が終了。選挙区関係なく対応。特に愛知県の方と夜に1時間話しました。選挙中ですが明日昼には事務所で再び同じ方と会います。命に関わることなので。自分の選挙はいったん横におきます。すみません。」

 なんだこれは?

 宮瀬候補のTwiterを遡ると、一つ前に「駅前相談会」の説明があった。宮瀬候補は都議を2期8年務めた現職だが、選挙に関係なく、始発から終電までの駅前相談会を開いているという。駅前相談会は初当選後から始め、今回が71回目。興味が湧いた私は、さっそく宮瀬候補に話を聞きにいった。

 街頭演説場所で宮瀬候補がかけるタスキには、前面に「立憲異端児」、背面には携帯電話番号が大きくプリントされていた。なにかのセールスマンかと思うようなタスキだが、こんな政党公認候補もいる。

「きのう相談を受けた男性は仕事も住居も失った状態で駅にいたところ、私の駅前相談会にきてくれたんです。始発から終電までの駅前相談会を真似する人はけっこういますが、他の人は昼間の5時間家に帰って寝たりしているんですよね。だけど私は本当に始発から終電までいます。丸イスを2つ置いて、ご飯もその場所で食べます。席を外すとしても10分まで。ゴミ拾いかトイレのときだけです」

 宮瀬候補はそう言うと、これまで行なってきた駅前相談の写真をみせてくれた。たしかに駅前に丸イスを2つ置き、そこで食事をとる宮瀬候補の姿が写っていた。

「きのうの相談者は愛知県の人なので票にはつながりませんが、命に関わる問題です。だから今日の昼間は選挙運動ではなく、その人と一緒に関係各所に連絡を取りました。その結果、生活保護受給と就労支援施設につなぐことができました」(宮瀬候補)

 それはなにより。その男性もホッとしたことでしょう、と言うと、びっくりする答えが返ってきた。

「彼はいま、あそこでビラ配りを手伝ってくれています」

 なんと! すぐに男性にも話を聞いた。どういう経緯で宮瀬候補に相談したんですか?

「実はホームレス状態になってしまい、駅のトイレで寝泊まりするような生活を続けていたんです。駅だから、選挙中はいろんな政党の候補者が来て演説しますよね。誰か助けてくれそうな人はいないかと、いろんな政党、いろんな候補の演説を聞いて品定めしていました。でも、なかなか相談したいと思える人がいなかった。そこに宮瀬さんが来た。演説も何度か聞いた上で、この人なら、と思って相談したんです。そうしたら、すぐに生活保護と就労支援につなげてくれて、本当に助かりました」(相談者の男性)

 男性はこれまで、某政党の選挙の手伝いを何度も経験していたという。しかし、その政党の候補者に相談しても、ここまでの対応はしてくれなかった。男性は選挙のときだけこきつかわれて、使い捨てにされた、と感じたそうだ。

「でも、宮瀬さんに会って、ようやく本物の政治家に出会えたと思いました。愛知県民だから投票はできないけど、某政党でビラ配りの経験はあります。だから今日はお手伝いさせてもらっています」(同)

 人命救助に選挙区の縛りはない。そんな宮瀬候補は今回の選挙で3万1201票を獲得。定数5に10人が立候補したなか、2位で3期目の当選を果たした。

選挙区に関係ない「駅前相談会」を初当選後から始めたという宮瀬候補。(撮影/畠山理仁)
選挙区に関係ない「駅前相談会」を初当選後から始めたという宮瀬候補。(撮影/畠山理仁)
宮瀬英治の背中はこちら!(撮影/畠山理仁)
宮瀬英治の背中はこちら!(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』『コロナ時代の選挙漫遊記』(ともに集英社)などの著書がある。またその取材活動は『NO 選挙, NO LIFE』(前田亜紀監督)として映画化された。
公式ツイッターは@hatakezo

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