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1月末の市長選挙と市議会議員選挙の投票率は80%超え! 鹿児島県西之表市が自衛隊馬毛島基地(仮称)の建設計画で今も揺れている

FCLP移転計画が最初に持ち上がった2007年から、すぐに反対運動が始まった

 馬毛島へのFCLP移転計画が最初に持ち上がったのは2007年のことだ。この時、西之表市ではすぐに反対運動が始まった。

 2011年の日米安全保障協議委員会で馬毛島がFCLP「候補地」として明記されると、西之表市では反対派による団体が結成され、西之表市民の3分の2の反対署名を集めた。当選2期目の長野力市長(当時)もFCLP移転に反対を表明した。

 長野氏は2013年の市長選挙でも当選して3選を果たした(6,851票対3,783票)。そこからしばらくは防衛省側から具体的な動きがない状態が続いた。選挙における票数で表された民意が政治に影響を与えたことは間違いない。

 しかし、2017年1月29日に行われた西之表市長選挙は混乱した。現職の長野氏が出馬せず、その後継を決める市長選挙は賛成派と反対派が入り乱れて6人で争う激戦となった。しかも、この選挙で候補者中最も多くの票を獲得した八板俊輔氏も当選に必要な法定得票数(有効得票総数の25%)に達しなかったため、同年3月19日に再選挙が行われる異例の事態となった。

 再選挙に立候補したのは4人。再び最多得票となった八板俊輔氏が今度は法定得票を満たして初当選を果たした。八板氏は計画に「同意できない」との立場を取っていたが、2位との差は267票という僅差での勝利だった。

 事態が大きく動き出したのは、八板市長の当選から2年が経過した2019年4月。前述した2+2共同声明で、馬毛島は「候補地」ではなく「恒久的な施設」となることが決定されてからだ。これを受けて推進派の動きも活発化。2019年12月には「馬毛島の自衛隊・FCLP訓練を支援する市民の会」が発足し、地元説明会の早期開催などを市に要請したり、署名活動を行ったりしている。

 2020年7月に行われた鹿児島県知事選挙では、元知事の伊藤祐一郎氏が「馬毛島の計画白紙撤回」を公約して立候補した。当時現職で二期目を目指した三反園訓氏、元経産官僚の塩田康一氏と三つ巴の戦いとなったが、この県知事選で当選したのは馬毛島の計画について賛否を明らかにしてこなかった塩田氏だった。ちなみに、西之表市での得票数を見てみると、伊藤氏は三田園氏(2,741票)、塩田氏(1,824票)に続く1,000票にとどまっている。

 塩田氏は7月28日の知事就任記者会見で「国の考え方や、地元住民と自治体の考えを聞いて調整を図りたい」と語った。また、8月21日の記者会見では私の質問に対し、防衛省側の説明が十分ではないとの認識を示した。塩田知事の定例記者会見では毎回、馬毛島のFCLP移転計画に対する質問が出るが、塩田知事自身は賛否についての態度を明確にしていない。

 しかし、同年11月27日、塩田知事は「法令上の要件を満たしている」として防衛省による海上ボーリング調査を許可した。馬毛島の計画に対する「反対」の声は、徐々に力を失っているようにもみえる。

市長選挙の結果は、わずか144票差!

3月27日、防衛省前を通る反対デモが行われた。(撮影/畠山理仁)
3月27日、防衛省前を通る反対デモが行われた。(撮影/畠山理仁)

 3月27日、東京都内で馬毛島の基地建設に反対する集会が行われると聞いて足を運んだ。集会の講師が「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会」会長の三宅公人(みやけ・きみと)氏だったからだ。

 集会終了後、私は三宅氏に聞きたいことがあった。それは今年1月31日に行われた西之表市長選挙、西之表市議会議員選挙の結果を受けて、「防衛省の対応が変わったかどうか」ということだ。

 あらかじめ読者のみなさんに選挙結果をお知らせしておく。市長選挙では、基地建設に「同意できない」との立場を取る八板俊輔市長が福井清信氏との一騎打ちを制して再選した。しかし、得票数は八板氏5,103票、福井氏4,959票でわずか144票差だった。

 市議会議員選挙でも反対派は数を減らした。改選前の勢力は定数16のうち、反対派11、賛成派4(欠員1)。改選前の4年間は反対多数を背景に基地反対の意見書を4回可決してきたが、今回の市議選で議会勢力には大きな変化が起きた。

 今回は定数が16から14に減ったこともあり、当選者は反対派7人、賛成派6人、中立派1人の構図になった。しかも、中立派の1人が選挙後に態度を変化させたことで「実質的に反対派7人、賛成派7人で賛否拮抗の結果」(三宅さん)になったという。その上、議決権を持たない議長は反対派から選ばれた。つまり、議会で多数決を取る場合、これまでのようにはいかない。三宅さんは続けて言った。

「防衛省が強気に出てきたのは、やっぱり選挙結果を見たからだと思います」

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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