よみタイ

脱サラは初代iPad発売と同じ2010年4月。改めて考える、この12年の仕事とデュアルライフ

東京生まれ、東京育ちの“シティボーイおじさん”が、山中湖畔に中古の一軒家“山の家”を購入! 妻、娘、犬とともに東京←→山梨を行き来する2拠点生活=「デュアルライフ」をはじめました。 音楽や読書など山の家での趣味活動から、仕事やお金のやりくりといった現実的な話題まで、 著者が実体験したデュアルライフのリアルを綴ります。 別荘暮らしが優雅な富裕層の特権だったのはもう過去の話。 社会環境や生活スタイルが大きく見直されている今、必読のライフエッセイです。 前回は、4月に入った山中湖に大雪! そこで役に立ったカインズの3,980円レインコートなど優秀、かつコスパ最高アイテムのお話でした。 そして今回は、著者がフリーランスになり干支が一回りしたタイミングで、改めてこの12年の働き方、ライフスタイルの変化を語ります。わずか12年前、Wi-Fiは当たり前の時代ではなかったのです。

雇われの身から逃れたが、仕事道具のケーブルでがんじがらめだった10年前

僕が勤めていた会社を辞めてフリーランス野郎になったのは前回の寅年、12年前の2010年春のことでした。
当時は、2008年秋に起きたリーマンショック後の世界同時不況による景気後退局面が続いていましたが、経済のことはよく分からないボンクラの僕ですから、そこは独立とあんまり関係がありません。
いや、心の中で「なんか世の中アタフタしてるから、どさくさに紛れて脱サラしーちゃおっ」とうっすら考えていたふしはあります。

独立当初の仕事環境は、今とはかなり様相が異なりました。
無線LANは普及段階でしたが、なんだか頼りなさげで信用できず、仕事でネットを使うならしっかり線でつないだ方が確実だと思っていました。
Wi-Fiという文字もちょくちょく目にするようにはなってはいたものの、「なんて読むんだっけ? ウィフィ?……じゃなかったな。人前で口に出すのはやめよう」などと思っていたものです。

ですから、自宅の一室をワークスペースに仕立てあげた際には、LANケーブルにつないだパソコン、そのパソコンとケーブルでしっかりつないだプリンター&スキャナ&外付けハードディスク、そしてFAX付きの有線電話を並べて仕事に臨んでいました。
ちなみに初代iPadの発売は、僕の独立記念日と同じ2010年4月です。
新しもの好きな僕はすぐに飛びつきましたが、セルラーモデルではなくWi-Fiモデルを選んだため、外ではなかなかネットにつなげることができず、ほとんど家の中専用機でした。

“ケーブル命”だった当時のごちゃごちゃ仕事空間
“ケーブル命”だった当時のごちゃごちゃ仕事空間

しかしそれからわずか数年間で、大きな変化が起こります。
ノマドワークという概念と言葉が広まったのは2013〜2014年のこと。
世の中の公衆無線LANスポット、いわゆるアクセスポイントが加速度的に増加し、外出先でネットを使いやすい環境が整いました。
コワーキングスペースという変てこな新語に耳が慣れるのにも時間はかかりませんでしたし、カフェでMacBookを開き、スマートに仕事をこなす人をしばしば目にするようになったのもこの頃です。

考えてみると、Wi-Fiとクラウドとタブレットの普及がなければ、もしかしたら僕はデュアルライフをはじめていなかったかもしれません。
いくらフリーランサーと言えども、自宅の自室という各種ケーブルでがんじがらめの仕事専用空間がなければまともに働けなかったとしたら、東京をしばしば離れることなど考えられないのですから。

別荘というのが、昔はお金持ちの代名詞だったのも当然です。
現役世代でも会社で高い地位にいる人ならば、いっとき完全に仕事から離れて優雅な週末時間を過ごすことができたのでしょう。
それにもしも緊急の仕事が発生しても、電話一本で部下を動かして処理することができたり、お抱え運転手付きのハイヤーを飛ばして東京に戻れたりする人でなければ、安心して別荘暮らしなどできなかったはず。

我が家のような貧乏暇なしの庶民世帯がデュアルライフを実現できたのは、ITの進化によるところも大きいのだと思います。
なにしろ今や、東京の家から山の家に移動するとき、持っていく仕事道具といえばiPad airとApple Pencilだけですからね。
ありがたや、ありがたや。

東京にいるときも、最近はほとんどこれだけで仕事をしている感がある
東京にいるときも、最近はほとんどこれだけで仕事をしている感がある
1 2 3

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

週間ランキング 今読まれているホットな記事