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山の家でたった一人過ごす夜。Netflixでつい『シャイニング』を観ちゃう現象

静かで孤独な山の家では犬が友達。でも恐怖映画でさらに自分を追い込んでしまう

こんなときこそ役に立つのが、犬です。
僕は愛犬クウを呼んで無理矢理ひざに乗せ、ぎゅっと抱きしめました。
ああ、犬がいて良かった。
「寂しいけど、頑張ろうな」

しかし相棒はなぜか迷惑げで、僕のひざからすぐに飛び降りると玄関に向かい、ワンワンと吠えて何かを訴えます。
リードをチラ見しながら吠えるこの仕草は、散歩の要求。
そうか忘れてたすまんすまんと言いながら、犬を連れて凍てつく外に出ました。
近所の永住組の家の窓に明かりが見え、ああ一人じゃないんだとほっとします。
でも、道を曲がると無人の家や林が広がる区域になり、少し不気味。
林の奥からガサガサと枯葉を踏む音が聞こえると、シカだとは分かっていてもギクッとします。

夜の散歩。窓の明かりが見えるだけでほっとする。
夜の散歩。窓の明かりが見えるだけでほっとする。

相棒には悪いけど早めに散歩を切り上げて、家に戻りました。
仕事はだいぶ進んだので、今日はもう終わり。
Netflixで映画でも観ながら寝てしまおうと思い検索していたら、ある作品がふと目に止まりました。

「ふむ、『シャイニング』か……」
一家で管理を任された、冬季閉鎖中のホテルで起こる惨劇。
1980年に公開され、ジャック・ニコルソンの怪演がいまだ語り継がれるこの恐怖映画は、何度か観たことがありました。
それは明らかに、山の中の家で一人鑑賞はやめた方がいい映画。
ところが、まずいぞまずいぞと思いながらなぜか僕の手は、再生ボタンを押していました。
この状況を逆に楽しみ、もっと自分を追いこみたくなったのかもしれません。
人って、そういうとこあるでしょ?

片時も犬を手放さずに鑑賞した『シャイニング』で僕が震えたのは、有名なラスト近くの襲撃シーンではなく、妻のウェンディが夫ジャック(ジャック・ニコルソン)の狂気を確信する場面。
小説家志願のジャックが順調に書き進めていたはずの分厚い原稿の束を、ウェンディは見てしまいます。

All work and no play makes Jack a dull boy
All work and no play makes Jack a dull boy
All work and no play makes Jack a dull boy
All work and no play makes Jack a dull boy……
(仕事ばかりで遊ばないジャックは今に気が狂う)

ホテルの中に巣食う何者かに正気を奪われたジャックは、タイプライターでこの一文をひたすら繰り返し書いていたのです。

物書きを生業としていてこのシーンに恐怖を感じぬ人はいないでしょう
物書きを生業としていてこのシーンに恐怖を感じぬ人はいないでしょう
物書きを生業としていて、このシーンに恐怖を感じぬ人はいないでしょ……

震えながらなぜか見入ってしまう『シャイニング』。
震えながらなぜか見入ってしまう『シャイニング』。
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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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