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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

革命家がつくった無印良品という店に、理想社会の幻影を見た?

西武池袋線沿線の家庭で育った僕は、華やかなりし頃の西武セゾンカルチャー真っただ中、堤清二の手のひらの上でひたすらウロチョロしながら成長した感がある。
無印良品について考えてみよう。

1970年代後半から出店をはじめた無印良品を、僕の両親はかなり気に入っていたようだ。池袋の西武百貨店や地元・ひばりヶ丘西友内のショップで、いつも何やかやと買い物をしていた。
中学生のとき、新しい自転車が欲しいと僕が要求したときも、なかば強引に無印良品へ連れていかれ、真っ白な自転車を買わされた。

何も装飾のない無印の自転車は、いま考えるとオシャレだけど、当時の僕はとても不満だったし恥ずかしかった。
子供の感覚なので確かではないかもしれないが、1980年代初頭の無印良品はどちらかというと、西友の中にある地味な安物の店というイメージが強かったのだ。
ただ真っ白いだけのその自転車を、僕はイヤイヤ使っていた。

無印良品は西武セゾンの領袖が自己否定のためにつくった店だった

ところがその後、無印良品はあざやかなブランディング戦略が功を奏し、オシャレなイメージが定着していく。MUJIブランドは海外にも進出して成功を収め、現在も意識の高い人向けのワールドワイドなおしゃれライフスタイルブランドとして君臨しているのは周知の事実だ。

いまの僕は、よく無印良品へ買い物に行く。セゾングループ崩壊後は独立独歩のブランドになっているが、なんとなく昔なじみのカルチャーの名残を感じて居心地がいいし、オーガニックで清潔な商品を眺めているだけで気分が良くなってくる。

そしてあらゆるライフスタイル商品を網羅する大型店でゆっくりショッピングし、 カフェMUJIでお茶などしていると妙な妄想がわいてくる。
資本主義と共産主義が競い合いの末、もし共産主義が勝って豊かになっていたら、世界はこんな風になっていたんじゃないか。無印良品ワールドは、理想社会の仮想現実なんじゃないかと。

馬鹿みたいに聞こえるかもしれないが、先日読んだ堤清二の評伝『セゾン 堤清二が見た未来』(鈴木哲也 日経BP社)によると、その感覚はあながち見当違いでもないようだ。
資本家の家に生まれながら学生運動に身を投じ、共産党への入党経験も持つ堤清二は、社内で無印良品のことを“反体制商品”と呼んでいたそうだ。
みずからが西武百貨店やパルコでつくった消費の流れに疑問を持ったことから立ち上げた、自己否定の産物だったのだ。

さすが、カッチョいいなーと、セゾンカルチャーに育てられた単純な僕は感心する。

ところで僕の真っ白なムジルシ号、その後どうなったかというと、結局、高校時代も毎日の通学に使い、大学生を卒業する頃までずっと乗っていた。
最初は気に入っていなかったので手荒に扱い、あっという間に薄汚れてボロボロな外見になったのだが、ある時点でパンクに目覚めて変なスイッチが入った僕は、「あれ? これはこれでなんかいいぞ」と思ったのである。
白い車体はキャンバスのようだったので、ペンやスプレーでいろいろと落書きしたり、ステッカーを貼りまくったりして、なかなか面白かった。

無印の自転車、また買ってみようかな。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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