そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。
2020.3.27
脇役的な存在のワークキャップにも、興味深いうんちくがあるのだ
本来は作業用のアイテムながら、ちょっとだけきちんとした雰囲気と、カッコつけすぎない“外し感”を併せ持つワークキャップ。
三日月型のツバと円筒形の胴体部を持つワークキャップは、自分の頭の形状に合うという理由もあってよく使っている。
ワークキャップの歴史をひもとくと、アメリカがゴールドラッシュを経て西部開拓に沸いた時代、つまり19世紀末〜20世紀初頭までさかのぼる。
厚手の生地を使った帽子はまず鉄道員用として開発されたので、“レールキャップ”と呼ばれた。
頭部を保護する機能性に優れていたため、その後ほかの様々な職種の労働者の間にも広がったのだそうだ。
細かくいうと、現在のワークキャップの形状には二種類あり、頭頂部がフラットで胴がシンプルな円筒形になっているものは“ドゴールワークキャップ”。
胴体部にいくつかのタックが付いていて、頭頂部がやや丸みを帯びたものは“エンジニアキャップ”と呼ばれる。
初期のレールキャップは現在のエンジニアキャップの形状に近く、ドゴールワークキャップはその後、ディテールを簡略化してつくり出されたものだ。
ドゴールという名は、フランスの空港名にもなっている軍人出身の大統領、シャルル・ド・ゴール(1890-1970)にちなんだもの。
シャルル・ド・ゴールがかぶっていた帽子に似ているため、そう呼ばれるようになったのだそうだが、ド・ゴールがかぶっていたのはワークキャップではなく軍帽だった。
フランスの陸軍や警察で古くから使われている、円筒形の胴に水平なツバがつけられた “ケピ帽”だったのだが、形状がワークキャップに似ていたため混同されたのだそうだ。
ファッションアイテムにはそれぞれに歴史やいわれがある。
僕はそういうものをとことん調べて把握したうえで、おしゃれを楽しみたいタイプ。
面倒臭い暇人と思われるかもしれないが、男のおしゃれとはうんちくに裏打ちされてなんぼだと信じているのだ。
ワークキャップなんていう脇役的なアイテムにも、こんなストーリーがあるのだから面白い、と思いませんか?

ワークキャップはサイドにロゴが入ったものに限る。その理由は……
ワークキャップを買うとき、気にしていることがある。
胴体のサイドにロゴがあるものを選ぶようにするということだ。
なぜならワークキャップ本来の風情を味わいたいから。
会社の制帽として支給されていたワークキャップは、ここに社名が入れられることが多かった。
ベースボールキャップのようにロゴマークが正面にないのは、あくまでも労働者の作業帽だったので、無闇に社名を強調するのはおかしいからだ。
主張しすぎないようにサイドにさりげなくロゴが入っているのが、本来のワークキャップの佇まいなのである。
僕が愛用しているワークキャップ。
ひとつは「SPAM」のロゴ入り。ゴーヤチャンプルーの具やスパム握りで有名な、あのランチョンミートだ。
たまたま訪れたハワイのスーパーマーケットでスパムのキャンペーンをやっていて、陳列されていたノベルティグッズ的なものだ。
スパム工場の労働者みたいでいいでしょ?
もうひとつは、ユナイテッドアローズのザ・ハイウェイストアというロゴ入りのもの。
これは、アローズがかつて東名高速道路の海老名パーキングエリアで運営していたお店の名前だ。
ハイウェイストアは数年間で撤退してしまったのだが、現存しないお店のロゴが入っているのも乙だなと思って、ずっと愛用している。