そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。
2020.3.6
いまわの際まで繰り返し観る予定の「北の国から」と「ふぞろいの林檎たち」
小学5年生の娘は最近、テレビドラマにハマっていて、毎シーズン何かお気に入りを見つけては欠かさず観るようになっている。
一応、親として小学生が観ても大丈夫な内容かどうか横目でチェックしているけど、自分のことを思い返してみると、そんなにうるさくすることもなかろうと考えている。
僕が小学5年生の頃、一世を風靡したドラマがあった。
倉本聰原作・脚本の「北の国から」だ。
吉岡秀隆演じる純がだいたい同じ歳だったこともあって、あっという間に引き込まれた。
いしだあゆみ演じる母・玲子のゲス不倫や、田中邦衛演じる父・黒板五郎の中年恋バナなど、小学生にはちょっときつい話もあったはずだが、僕にとってはいろいろと目覚めるきっかけになったドラマであり、心に深く刻み込まれた。
主要キャストはもちろん皆よかったけど、なぜかグッときたのは、涼子先生役の原田美枝子と雪子おばちゃん役の竹下景子だったな〜。
そして、もっといろいろ目覚めまくっていた中学2年生の頃、もう一つの伝説的テレビドラマが放映された。
山田太一原作・脚本の「ふぞろいの林檎たち」である。
「北の国から」もそうだけど、日本のテレビドラマ史上に燦然と輝く名作中の名作だから今さら話の筋など書かないが、まあいろいろと衝撃的だった。
中井貴一演じる仲手川、時任三郎演じる岩田、柳沢慎吾演じる実。この三人の三流大学生に、手塚理美演じる陽子、石原真理子演じる晴江、中島唱子演じる綾子が絡む青春劇。
でも、もっとも鮮烈に記憶に残っているのは、脇役の高橋ひとみなんだよな〜。
同世代の人たちはきっと深くうなずいているはずだ。
というわけで、僕に人生のほとんどすべてを教えてくれた二本の偉大なドラマ。
サブスク全盛のいまだが、この揺るぎなきバイブルだけはいつでも自由に観られるようにしたくて、両ドラマのシーズン1はDVDで保有している。
死ぬまで、何度も繰り返し見返すつもりだ。
両ドラマの共通点は秀逸な音楽。サザンオールスターズとさだまさしは特別な存在だった
2つのドラマの共通点は、音楽が秀逸だということ。
ご存知のように「北の国から」はさだまさしのオリジナル曲、「ふぞろいの林檎たち」は初期サザンオールスターズの既存楽曲が全編を通して流れる。
中学生時代、僕はパンクロックとニューウェーブに夢中であり、他のジャンルは敵性音楽のように思っていたのだが、2つのドラマのおかげで「さだまさしとサザンオールスターズは違う。いい! 認める!」と思っていた。
アホだ。
前に読んだ記事にこんなことが書いてあった。
ある日、倉本聰の自宅に突然招待されたさだまさしは、「いま撮っている富良野を舞台にしたドラマのために、音楽を作ってくれないか」と依頼されたそうだ。
大脚本家からの直々の頼みだから、考える余地もなく快諾。「いつまでに?」と聞いた、さだ。
すると倉本は「ちょっと急いでるので、いま作ってよ」と言ったのだそうだ。
泡を食いながらも倉本聰の目の前で紡ぎ出したのが、あの美メロだったというのだから、やっぱりさだまさしは天才なのかもしれない。
そしてドラマの内容と音楽がより強くリンク、というかサザンの曲なくして成立しないのが「ふぞろいの林檎たち」だ。
心が動かされる瞬間にスッと寄り添うように流れるので、ストーリーを思い出すと自然に頭の中で各曲が再生される。
あるいはサザンの特定の曲を聴くと、ドラマのシーンが蘇ってくる。
特に効果的に使われていた曲の一つが「Ya Ya(あの時代を忘れない)」。
僕は個人的なリアル体験でも、この曲に思い出がある。
通っていた高校の最終下校を促す校内放送が同曲だったのだ。
「ふぞろいの林檎たち」の記憶とも相まって、今でもこの曲を聴くと、夢の中のようなあの頃のことが生々しく蘇る。
バカで情けなくてモテないのに自意識ばかり過剰な高校生だったから、楽しかった思い出と同じくらい、切なく恥ずかしい記憶が甦ってきて頭をかきむしりたくなることもあるけど。
まあ、誰にとっても青春なんてそんなものなのかもしれない。
