よみタイ

佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

名古屋の町で偶然出会った、あまりにマニアックで超かっこいい靴

打ち合わせのために訪れていた名古屋・大須の商店街をぶらぶら歩いていたら、おやおやこれはこれはと、あるショップへ自然に吸い込まれていった。
fab chic(ファブシック)という店で、僕が好きな1960年代のモッズ~スキンヘッズカルチャー、それに1970年代のノーザンソウルや1980年代のマッドチェスターカルチャーの香りを感じさせる、マニアックな服が大量に並べられていた。

むむ~これはすごいと鼻の穴を広げて商品を物色していたら、店主の男性(そっち系カルチャーでは名の知れた山田琢さんという人だと後から分かった)に話しかけられた。
トークするうちに、こちらの趣味嗜好もあっという間にバレた。

そして、フルオーダーのモッズスーツを仕立て、オリジナル商品も数多く開発しているという山田さんが、激しく勧めてきた靴があった。
後期スキンヘッズが履いていたんだけど、世の中にほとんど出ていない形なので、自分で作ったのだという。

「後期スキンヘッズということは、スウェードヘッズやスムーズですね」と返したら、「お客さんで、すらっとそんなこと言う人は初めて」と感激してくれた。

良かった良かった。
何か特定の入れ込みジャンルを持っていると、見知らぬ土地で初めて会った人とでも、こうしてあっという間に分かりあえるから楽しい。

ニッチ中のニッチなアイテムを、個人の熱だけで作ってしまう心意気

僕もその存在を知らなかったのだが、“ボックストップ”あるいは“ノルウェジアンズ”と呼ばれるシューズなのだそうだ。
1970年代に入った頃からロンドンを中心とする都市部では、暴力集団として世間から白い目で見られていたスキンヘッズが坊主頭をやめて髪を伸ばしはじめ、スウェードヘッズと呼ばれるようになっていた。
同時期のマンチェスターでは、初期モッズの愛したレアなソウルナンバーを復活させる運動が起こり、ダンスホールに集い躍り狂ったノーザンソウルと呼ばれるカルチャーの若者たちが増殖した。
そんな彼らが好んで履いていた靴なのだそうだ。

いやいやいや、マニアックすぎるでしょ。
そんなに説明が必要な靴なんて作っちゃっていいの? 売れるの? 採算取れるの? とたいへん心配になったのだが、一旦店を出た後もその靴のことが頭から離れず、仕事を済ませたあとにもう一度fab chicに舞い戻った。
「お帰りなさい!」と迎えてくれた山田さんに、「いやあ、あの靴が忘れられなくて」と言うと、「でしょうね!」と自信に満ちた笑顔を見せてくれた。

それでまあ、まんまと買ったわけです。
でも、これはすごいと思いますよ。めちゃくちゃかっこいい!
そして、なんだか考えさせられた。
ニッチ中のニッチなこんな商品を、個人の熱い思いだけで作る。なんて素敵なことだ。
マーケティングなんて関係ねーよ!

過去の様々なストリートムーブメントも、最初は本当に小規模の集団の内輪受けからはじまったものなんだし。
まあ、難しいことはいーや。
この靴、最高にかっこいいでしょ?

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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