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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

GAPのアウトレットショップで買ったモッズコートがなかなか優秀です

久しぶりにモッズコートを買った。
別に欲しかったわけでもないのに。

昨年末のある日、御殿場プレミアムアウトレットのGAPショップを冷やかしていたら、裏ボアのモッズコートが4900円(税抜き)で売られていた。
「へえ、ずいぶん安いね」と思って、何気なく試着してみたら悪くなかった。
それに、その日はたまたまメチャクチャ寒く、着ていたアウターが薄手のもので震えていたから、ちょうどいいやと思ってそのままレジに持っていったのだ。

なんて、つい言い訳がましい書き方をしてしまうのは、僕がもともとモッズコートについて強いこだわりと愛、それに微妙な思いを持っているからだ。
一般的にモッズコートと呼ばれるフィッシュテールのフード付きミリタリーパーカM-51は、1951年にアメリカ軍が採用した野戦用コート。
朝鮮戦争の停戦に伴って世界中で安価に放出されるようになると、1960年代初頭、イギリスのロンドンを中心に増殖していたモッズがこぞって着るようになり、モッズコートの通称で呼ばれるようになった。

イタリア製のベスパやランブレッタといったスクーターを足代わりにしていたモッズは、ご自慢のスーツがオイルや排気ガスで汚れるのを防ぐのと、夜遊びの際に寒い外気を避ける目的でM-51を着たのだ。

細かいことにこだわらなくなったいま、改めてその良さを実感したモッズコート

中学生のときパンクロックに目覚め、やがてそのルーツをたどるように’60年代のブリティッシュカルチャーに惹かれるようになっていた僕は、大学生になって最初にもらったバイト代を握ってとあるサープラスショップへ行き、M-51を購入した。
モッズコート以上にかっこいいアウターはないと信じていたし、着るなら形状だけを真似したなんちゃってモッズコートではなく、本物のM-51に限ると頑なに思っていたのだ。

やがて当時のリアルタイムなムーブメントであったマッドチェスターカルチャーに染まるようになると、古いモッズカルチャーの象徴であるM-51はクローゼットの中で眠ることが多くなった。
でもやっぱり、たまに羽織ると身が引き締まる感じがしたし、最高のアウターであるという思いは変わらなかった。

ところが、である。
忘れもしない1997年のこと。
愛するモッズコートが侵されてしまった。
そんなに悪く言うこともないんだけど、あのドラマ『踊る大捜査線』が放送されたのだ。
織田裕二演じる主人公・青島刑事のトレードマークのひとつがモッズコートだった。
『踊る大捜査線』が大人気になるにつれ、街でモッズコートの人を見かけることが多くなった。
そして僕がクローゼットから引っ張り出して着ていると、「あ、踊る大捜査線だね(笑)」と言われるようになった。

そのたびに「違う!! 違うんだぜ! モッズコートっていうのはだね、ミーハーな流行ではなく、由緒正しいストリートカルチャーなんだ……」と説明したくなったが、面倒くさい人と思われるだけなのはわかっていたので、グッと堪えた。
そして、大事にしていたM-51をフリマで売っ払ってしまった。トレンドアイテムなのでそれなりの値段で売れたのは、まあ良かったのだが。

そういえば数年前にも似たような感覚に陥ったことがある。
僕は中高生時代、剣道に親しみ、いまも町道場で稽古をしているのだが、ドラマ『半沢直樹』が放送されている頃、人に剣道をやっていると言うとニヤリとしながらこう言われた。
「お、半沢直樹の影響ですね」。
「違う違う違ーう! 半沢直樹なんて観てないし! 影響を受けたとすれば、小学校時代に読んだ『おれは鉄兵』と『六三四の剣』だし!」と大きな声で言いたかったが、もちろん、危ない人と思われるのは嫌なので「いや、そう言うわけでは……」と口ごもるだけだった。

つまり何を言いたいのかと言えば……。
青島刑事のイメージも薄れ、若き日の頑なさもなくなったいま、久しぶりに買った安いなんちゃってモッズコートは、なかなかいい具合なのです。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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