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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

ナード系とファッション系が融合した渋谷パルコを訪ねたら、なぜかウディ・アレンを思い出した

ウディ・アレンが監督・主演を務めた1977年の名作映画「アニー・ホール」。
若き日のダイアン・キートン演じるヒロインの、可愛いマニッシュスタイルが世界的に注目された映画だが、メンズスタイルの方も忘れてはならない。
主人公のコメディアン、アルビー・シンガーは冴えない雰囲気のニューヨーカー。ウディ・アレンはこの役を演じるというよりも、素のままでスクリーンに登場しているように見える。

ウディ・アレンといえば、若い頃から老境に至った最近まで、一貫性のあるスタイルで知られる。
ゆったりめのコーデュロイパンツかチノパンに、チェックあるいは無地のカジュアルシャツをタックイン。ノーネクタイの首元には、下に着たクルーネックのTシャツが少しのぞく。
茶系かグレーのツイードジャケットを羽織り、無難なベルトと革靴。そして黒縁のボストンメガネだ。寒い季節にはシャツとジャケットの間に、これまた無難な雰囲気のクルーネックセーターを着ていることもある。

ウディ・アレンのファッションは、“ダサおしゃれ”と評されることも多いが、僕はこれこそメンズスタイルの究極ではないかと思う。
仕事柄、いろんなファッショニスタを見てきたが、本当のおしゃれを知る人はごくオーソドックスなスタイルに落ち着き、見ようによっては少しダサい雰囲気になるものなのだ。

その最高峰がウディ・アレンだ。

ナード、ギーク、オタク、ビル・ゲイツ。そしてたどり着いたエルボーパッチ付きジャケット

話は突然変わるのだけれども、新装オープンしたばかりの渋谷パルコに行ってきた。

ネット上で多くの人がレポートをしているので詳しくはそちらを見ていただければと思うが、際立っているのはいわゆるオタク系カルチャーとファッション系カルチャーが同居した館であるという点。
少し前から両者の接近・融合は指摘されていた。綿密なマーケティングをおこなった上でつくったであろう新しいパルコは、そうした現在の東京カルチャーを象徴している。

特定分野への知識が豊富で偏執的志向性を持つ人たちは、英語ではナードあるいはギーク、日本ではオタクと表現される。
ナード、ギーク、オタクは少しずつニュアンスが異なり、それぞれの中でもジャンルは細分化されるが、そこを追いはじめたらキリがない。
ざっくりと“ナード系”と呼ぶとして、かつてはダサくて気持ち悪い人種とされていた彼らが日の当たる場所に出てきたのは、1990年代中頃から2000年代初頭にかけて急速に進展したIT革命の時代だ。

スティーブ・ジョブズが代表格と思われるかもしれないが、彼はヒッピーあがりの思想家なので、純粋なナード系とは少し違う。
純ナード系の代表選手は、マイクロソフトのビル・ゲイツ。ビル・ゲイツの活躍のおかげで、それまでナード系に押されていた社会的不適格者という烙印は過去のものとなり、広く社会に受け入れられる存在となった。
そしてビル・ゲイツよりももっと前に、ナード系こそ究極のおしゃれだと体現していた偉人が、他ならぬウディ・アレンなのだ。

渋谷パルコを訪ねたおかげでこんなことをつらつらと考えつつ、なんとなく「アニー・ホール」のウディ・アレンを彷彿とさせる、エルボーパッチ付きのヘリンボーンジャケットを着たくなった。
ダサいかな?と、少し不安になるのは、僕がまだまだ未熟者だからだろう。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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