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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

ファッションにおけるゲシュタルト崩壊について考えていたら頭が混乱してきた

よく知られたゲシュタルト崩壊の例は、同じ文字をずっと見ていると全体的な印象が崩れ、「あれ? この字ってこんな形だったっけ?」と思ってしまうというもの。
「貯」とか「借」とか「若」とか「あ」とか「を」とか「ふ」とか、ゲシュタルト崩壊が起こりやすい文字があり、「借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借借」と手で書き続けると、頭が混乱してくるものだ。

文字だけに限らず、人の顔や幾何学図形など視覚的なもののほか、音楽などの聴覚、触り心地などの皮膚感覚、そのほか何でも脳で認知する事象にはゲシュタルト崩壊の可能性が秘められている。
認知機能のクセのようなものなので、起こりやすい人と起こりにくい人がいると思うが、僕は比較的、起こりやすい方なのではないかと思っている。

歌人の穂村弘もゲシュタルト崩壊しやすい人のようで、「ゾウやキリンやヘビの形って、これであっていたっけ? まるで空想上の生き物じゃないか」とか「メガネって、三点保持機構だけで顔にはりついているのは絶対におかしい」などと思ってしまうことを、エッセイに書いている。
僕も本当にそう思う。

美容院で切られていくおのれの髪をじっと見ていると、「頭から無数に生えているこの糸状の黒い物質はなんだ? 気持ち悪い!!」と思ってしまうし、鏡で唇を見ていると「本来は体の内側にあるはずの部分が、こんなに外に出てしまって……。恥ずかしい!!」という気がしてくる。

ゲシュタルト崩壊が起こる前に、あれこれ考えず楽しむのがファッションの本質なのか

ファッションもゲシュタルト崩壊が起こりやすいもの。
基本的なアイテムや機構でいっても、スーツやネクタイやベルトや衿やジッパーなどなど、疑いはじめたらキリがない。
ゲシュタルト崩壊が起こる前に、あるいは崩壊を乗り越えて、「これでいいのだ」「やっぱりこれがかっこいいのだ」と思い込むことで、ファッションは成立してきたのだろう。

コアなファッション人は、ゲシュタルト崩壊への耐性が強いのかもしれない。
毎年のコレクションで発表されるモード系の服なんて、ゲシュタルト崩壊を待たずして、頭の中が??になるし、そういうコレクションを元に決まる毎年のトレンドも、考えはじめると「なんじゃそりゃ?」というものばかりだ。

そもそも僕はモード系の服にほとんど興味がなく、ごく定番の服や、ワーク・スポーツ・アウトドア系などの実用着から発展した服が好き。
それは、ゲシュタルト崩壊しやすい脳のクセによるものなのかもしれない。
なーんて余計なことを考えていたら、どんどんドツボにハマってしまう。
ゲシュタルト崩壊が起こる前に、ファッションは楽しむに限るのだろう。

こんなことを書こうと思ったのは、愛用のタッセルローファーのフサフサとボンボンをじっと見ていたら、気が狂いそうになってきたからなのだ。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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